小説「召喚と召還の結末」
不思議な親子
「父ちゃん。これから、どーすんの?」
食事も、終盤に差し掛かった頃、息子はデザートを口にしながら、聞いた。
「んー…」
「父ちゃん。もしかして、やる気無いの?」
コテンと首を傾げ、そう聞く息子。
「そんな事はねぇよ。ただなぁ…」
父親は、歯切れの悪い回答をした。
「ここでは仕事しないの?」
「何とも言えん…」
「じゃ、帰る?」
言外に、手ぶらでか?と含ませる息子に、苦笑する父親。
何の収穫も、成果も上げられないでは、来た意味が無いのだが、何故か父親は乗り気にはなれない様子で言う。
「今更、帰るのもなぁ」
いつになく、歯切れが悪く、やる気の無い父親に、とうとう息子が切れる。
「父ちゃん。いい加減にしなさい!!。はっきりする!!仕事しないの!するの!どっち!」
髪を逆立て怒る息子に、父親は何かを観念したのか。
「分かったよ…仕事する」
と、答えた。
「うし!!なら、行く!」
素早く勘定を終えると、父親の手を取り歩きだす息子。
その息子に手を引かれ、渋々と店から出る父親。
普通なら逆の光景なのだが。
この親子は時々、このようなやり取りを繰り広げる
時たま、幼い息子に、父親は、こうして背を押される。
何故なら、この父親190センチを優に越える身長、筋骨隆々のゴツい外見をしてはいるが、息子の言葉に弱い。
そして、父親は息子に、手を引かれながら街中に、目を向けた。
やはり、最初に息子が言った通り、どこもかしこも、全体的に暗く陰湿な空気に包まれていた。
健全な活気が見られない。
あるのは、妙に嫌な空気。
酒場や宿屋などに併設された食事場、歓楽街には、絶えず人が居て騒がしいのに、一歩でも、店の外を出ると通りを支配しているのは沈黙。
感が告げる。
これは間違いなく、戦争独特の空気感。
迫りくる死の恐怖。
それから逃れたいが為、民は快楽や娯楽に、逃げていた。
(こりゃ、大敗の負け戦と決め付けてるな)
声に出さず、父親は心の中で、呆れた。
確かに、二国から侵略されている上、近日中には大量の傭兵が戦闘に投入されると聞けば、誰もが負けを覚悟するモノなのかもしれない。
だが、情けないにも程があると、父親は思った。
この国は、誉高き武の国であった筈。
知らず知らずの内に、父親は手を握り込む。
(王が変わって、たかだが、数年。こうまで、民が怯えるほどに、この国の軍力は落ちてんのか?)
そんな父親を察してか、息子が言う。
「父ちゃん」
「ん?どうした」
「コレ、負ける気満々だね」
「だよなぁ…」
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