小説「召喚と召還の結末」
4
目を覚ますと、不思議な事に、貫かれた筈の胸には傷一つなかった。
あるのは、けだるさだけ。
一瞬、あれは夢だったのか?と、考える。
だが、すぐにその考えを捨てる。
辺りに漂うむせ返る程の血の匂いが気を失う前の出来事を物語っていたからだ。
多量の血液から、どす黒く変色した大地。
そして、与えられた名前を口にする。
「ブラック」
それが自分のこれからの名前なのだと、思い出す。
そして、ブラックは、ある事に気づく。
気を失う前まで、身の内にあった感情が消えていた。
自らの身を壊しかねない程の感情があった筈。
なのに、今のブラックの中にあるのは、不思議な事に安らぎと自信。
あの憎しみが無くなった訳ではないのに、不思議と初めてブラックは自分に穏やかな気持ちがあるのを感じた。
一体、名前と共に自分は何を得た?。
その対価は何なのだろう?。
と、ブラックは思いを巡らす。
目に見えて、何かを失った様には見えなかった。
手も足も、欠ける事なくあり、記憶を失った訳でもない。
名を告げるは、契約。
名を受けるは、支配。
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