小説「召喚と召還の結末」
阿保と馬鹿
男は更に。
「これりゃあ…下手すっと、無駄な旅になるかもなぁ…」
と、諦め気味に言う。
しかし、後ろから。
「バル。あなたは何を言っているんですか?この国なら、儲けが出るから来てるんです。私達は無駄な移動はしません」
と、静かな声が言った。
「んだよ…」
バルと呼ばれた男は、声の主に向き直り、顔をしかめ。
「へぇへぇ…なら、儲かるんだろうなぁ。カリスさんの言う事は、いつも正しいからよぉ」
と、些か刺のある言い方をした。
その態度に、カチンときたらしいカリスと呼ばれた線の細い青年。
すぐさま不快そうに眉を寄せ。
「言いたい事は、それだけですか?これだから馬鹿は困るんですよ」
と、厭味を含めて返した。
その途端、二人の間には、険悪な空気が流れる。
「アァ゛…マジで、シメっぞ…ゴラァ!!」
「やってごらんなさい。返り討ちにしてあげますよ」
睨み合う二人。
あわや、このまま乱闘かと、思われた。
ーしかしー。
「そこのアホと馬鹿、うっさい!!」
そう言って、険悪な二人の間に、割って入ったのは先程まで、父親の足にしがみついていた子供。
「あっ?…」
「えっ…?」
突然の事に、固まる二人。
だが、子供は気にせずに、言う。
「まぁ、アホと馬鹿は、ずっとそこで、喧嘩してれば良いよ」
そして、父親の足から手を離し、二人を何も無かったかの様に、平然と無視して
「父ちゃん。オレ、腹減ったぁ」
と、催促し始めた。
そんな子供に父親は。
「ん?…じゃ、飯にすっか…あっ、お前等は、くんなよ?…その辺で、反省しとけ」
そう言って、子供の手を取ると、歩きだした。
だが、残された二人は反省するどころか。
「やっぱ…ボンは肝が据わってんなぁ…」
「流石は、あの方のお子さんですね」
と、子供に対して、妙に感心した後。
「………」
「………」
二人は、無言で互いに反対方向へと歩きだした。
ガヤガヤと昼時特有の騒がしさの中、親子は一軒の酒場で、食事をしていた。
「ホレ、口元が汚れてるぞ」
食べる度、ポロポロと、食べ物を口から落とし、飲み物で口元をベタベタにする息子に、父親は呆れながらも、口元を拭いてやった。
すると。
「とーちゃ…あふがとふ…」
そうお礼を言う息子。
しかし、リスみたいに、食べ物を頬に一杯、貯めて喋った息子に、父親は。
「おいおい。お前なぁ…食い物、口に入れたまま喋んな」
と、苦笑して言った。
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