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精神的外傷(HTF)
咽せ返る程の血の臭い。
散らばった肉片。
辺り一面の赤、赤、赤。

その中心には静かに佇む――……我らが英雄

今にも掻き消えてしまいそうな儚い空気に身を包まれながら、彼の背中は動かない。

私は見ていた。

悲鳴を聞いた彼が、いつものように駆け付けるのを。
そして救おうとして…彼らを壊してしまうのを。

ゆらりと風に吹かれたように振り返るディド。

目が合った。

光りが消え失せ。
何処か虚空に泳ぐ。
危なげな眼差。

あまりに痛々しくて思わず逸らしたくなった。

しかし、今、私がそれをすると、かろうじて保ってる"彼"が、今度こそ崩れてしまうような気がした。

下手な言葉も送れない。
優しいだけの言葉は、きっと今の彼には届かない。
それどころか心が砕けてしまう。
そんな気がした。

私はただ真っ直ぐに彼を見た。

どれくらいそうしていただろう。
不意にディドが呟いた。

「悲鳴が……聞こえたんだ……」
「……うん」
「助けようと思って……飛んできたんだ……」
「うん」
「救いたかった……」
「うん」
「救いたかったんだ……それなのにッ!!」

壊してしまった――……!!

最後まで聞いていられなかった。
思わず彼に駆け寄り、そして……抱きしめた。

「……離してくれ」
「駄目」

泣いているのだろうか。
彼の声は震えていた。

「嫌だ……私は……!」

腕の中で暴れだすディド。
私はぎゅうっと力を込めた。
彼が暴れる度に、骨が軋む。

「ぁ……ぁあ……頼むから離してくれ!!嫌だ!嫌だ!私は君まで壊したくないッ!!」

彼の発する拒絶の言葉は、もはや痛々しい悲鳴そのもの。
何故そんなに追い詰められてまで彼は英雄でいるのだろうか。

狂ったように嫌々を繰り返すディドを腕の中に、私の胸は締め付けられるように痛んだ。

「ディド」

出来る限り丁寧に。
優しくその名を口にする。

「ディド、大丈夫だよ」

言葉は限られている。
私はその一言にありったけの想いを込めた。

「頼む……君だけは壊れないでくれ……わ、私が触れても……君だけは……!」
「大丈夫、大丈夫だから……」

柔らかく頭を撫でる。
ディドの抵抗が少しずつ弱くなっていく。
そのまま顔だけ少し離すと、涙でぐしゃぐしゃになった彼の顔。

「帰ろっか」

私は微笑みながら言った。

疲れ果ててしまったのか、ディドはただ黙ってこくんと頷いた。


そんなにボロボロになるくらいなら
あんな奴ら放っておけばいいのに――……

そんなどろついた感情が首をもたげた。


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