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Honey Flower(本編+SS)
6
「『睡蓮』がうまくお客様の興味を持つと良いんだけど……あっ」

 最後の一声は、都真に腰を抱かれたから。
 ことん、と音がして、マグカップがパソコンの横に置かれた。

「だめだよ、都真。液体を機械の横になんか置いたら」

「良いから。ソウ。おいで」

 背中側から抱きしめてくる都真が、僕の首筋に顔を埋める。
 息がかかると、胸が痛くなるくらい、都真が愛しい。

「ソウ、良い匂い…俺を好き?」

 うん、と返すと都真がこめかみにキスをくれる。
 手が、エプロンの下のシャツのボタンを解いて来て、肌の上を滑ってくる。

「…んっ…」

 吐く息に、声が混じる。

「そうだね、ソウは俺を好きだね。何しろ、こんなにも良い匂いなんだから」

 匂いのことは、自分じゃわからないけど。
『花』の説明をお客様にする時、たまに都真が、僕のことを良い匂いだって言うのを思い出す。

『花』はお客様を愛するようになると、香りが変わる。
 その芳香は『花』によって、変わっていて。どんな香りがするかは、『花』しだい。

(それって)

 都真の指先が触れる、僕の脚の付け根が、水音を立てる。
 ベッドに引き上げられた膝で、その場所がどうなっているのか、僕にはわからないけど。
 熱くて熱くて、たまらない。

 背中をくたっと都間の胸に預けて、熱い息を吐く。

 都真に触れられると、甘い感覚が腰の奥から湧き上がってきて、もっともっと触れて欲しくなる。
 都真はそんな僕の気持ちを知っているみたいに、僕の触れて欲しい場所に指先をくれる。

「は…っあ…。…都真…好き…」

 ニンゲンの男の子は濡れない場所が、『花』は蜜で潤う。
 お客様を、受け入れやすくするために。

 芳香は、指先で高められた体温で広がっていく、蜜の香りだ。
 僕の腿の内側に、液体が伝い落ちて行く。

(僕は…『花』じゃないよね?)

 都真の指先に、体を熱くさせながら疑問に思う。

 僕がお客様に説明している『花』の取り扱いは、どこか僕自身に通じてはいないか?

(違う。僕の名前は、『ソウ』だし。僕は、違う…)
 
 浮かび上がる疑問は、すぐに泡沫のように弾けてしまう。
 蜜が溢れた場所に、都真が熱をくれるから。

「あっ、都真っ…」

 ぎゅっと目を瞑る。
 そうすると、ふわふわと浮かび上がっていた色んなことが、全部弾けて消えてしまって。
 僕はただ都真の体にしがみついて、嵐のように翻弄される甘い快楽に、根を下ろす――。

 都真が腰を密着させて、僕の耳元に鼻先を寄せる。
 都真の、熱い息が耳にかかって、自然に肩が震えてしまう。
 涙液が流れて、こめかみを通って耳に入り込んでしまった。

「ソウ…なんて匂いだ…頭がおかしくなる…」

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