Honey Flower(本編+SS)
4
ドアのこっち側にいるのは僕だけだ。
慌ててドアノブに触れると、がちゃりと鍵がかかる音がした。
閉じ込められたことで、急激に不安が胸に広がった。
「結城!? どうしてっ、一緒にお願いしてくれるって言ったよね!? 開けて! ここを開けて!」
向こう側に、結城がまだいるはずだ。
ドアを拳で叩いて、結城の名前を呼んでいると、後ろからひょいと抱えられた。
(えっ)
突然体が宙に浮いて、視界にあった床が遠ざかった。
肩に担ぎ上げられたのだ。
見えるのは背中と、床。
スリッパを履いた足がどんどん進んで。
僕の体は、ぼすんとベッドの上に座らされた。
正面に、大人の男の人。
がっしりした体つきに、意志の強そうな黒い目をしている。
光が入ると少し赤みを帯びた強い目が、なんだか怖くて、視線を少しだけおとした。
(この人が、カイさま?)
見つめられると、なんだか逃げ出したくなる。
「金木犀。待っていたよ、おまえが直るのを」
「なおる?」
カイさまは僕の肩を抱きしめて、首筋に鼻先を埋めた。
熱のこもった息が、寝間着の襟元を通り過ぎて、肩が揺れた。
「おまえは、壊れたんだよ。でも、もう大丈夫。今度こそ、おまえの可愛い場所に、俺を 受け入れてくれるな?」
壊れた?
カイさまの言っていることが、よくわからない。
僕は病気だったんだろうか。
だから、銀砂の家で眠っていたのか?
「僕は、治ったの?」
「目が覚めたんだから、直ったんだろうよ」
襟元に口元をつけて、カイさまはすう、と息を吸い込んだ。
「微かだが、匂うな。もっと強い匂いにしてやるからな」
「匂い?」
鸚鵡返しにするが、その返事はなかった。
長い寝間着の裾から、手が入ってきた。脇腹をする、と撫でてきて、くすぐったい。
身を捩ると、腰をがしっと掴まれた。
指先に力が入って、痛い。
──怖い。
「逃げようとしても、どこへも行けないよ、金木犀。おまえのいる場所はここしかないんだよ。おまえは自分の足で、この部屋に入ってきたんじゃないか」
「だって、あの、銀砂のことを……」
寝間着が捲りあげられて、舌が肌の上を滑り始めた。
指先とは違う感覚が、ぞわぞわと動きだす。
指先が胸の先を摘んだ瞬間、ぴりっと何かが走って肩が揺れた。
カイさまがくすっと笑う。
「敏感。涙まで浮かんでる。可愛いな、金木犀。こんな顔するんだ」
「違……もう、やめて。くすぐったくて、話ができな……」
銀砂のことを、お願いしたいのに。
夢の中で、ずっと話しかけてくれていた、優しい銀砂。
僕は、銀砂と一緒にいたいんだ。
舌先が胸元を這うのを、手を差し入れて阻んだ。
寝間着の裾を引き下ろす。
口元を閉じたカイさまが、怖い目でじっと僕を見つめた。
「まだ壊れているのか、金木犀? 俺は無理強いせずに待っていただろう?」
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