Honey Flower(本編+SS)
3
様子を見ていた結城が「わかりました」と話を切った。
「金木犀さま。カイさまにお願いしてみましょう。私が1人でお願いするより、金木犀さまが一緒に訴えていただければ、きっとカイさまもご快諾下さいます。
そうすれば、銀砂も土いじりをしながら小さな家に住むこともなく、お屋敷で貴方に仕えて暮らすことができますよ」
「うん…」
本当を言うと、結城の言っていることが理解できたわけじゃなかった。
カイさまに会ってお願いすれば、銀砂と一緒にいられる。
その時、理解したのはそれだけで。
結城に背を押されて、僕は黒い車に乗ったのだった。
屋敷に到着した僕は、豪奢な光景に目を細めながらも、懐かしさを感じていた。
僕はこの屋敷を知っている。
奥に進むにつれ、案内役は必要でなくなって行った。
(僕はどうしてここを知っているんだろう)
住んでいた?
カイさまが僕を待っている?
でもカイさまって、誰?
記憶にあるドアを開ける。
この部屋は知っている。
僕は、この部屋にいたことがある。
プリズムを生む小さなシャンデリアの下の、大きなベッド。
野薔薇をあしらった壁紙に、毛足の長い絨毯。
部屋の中にある、もう一つのドアは、カイさまの寝室に繋がっている。
そこまでわかっているのに、僕はカイさまの顔が思い出せないでいた。
(早くカイさまに会って、銀砂と一緒にいられるようにお願いしなくちゃ)
出窓にクッションを置いて、腰をもたれさせた。
二階にあるこの部屋からは、庭園が一望できる。
素晴らしい庭園だ。
窓辺の光と温度に、僕はまた睡魔の虜になっていた。
目覚めると夕方だった。
女性が訪ねてきて、食事だというので、また着替えて食堂へ行った。
一人でとる食事は、なんとなく味気ない気がしたが、以前もそうだった覚えがして。
おとなしく食べ終わると、そのまま風呂に連れて行かれた。
着替えの時と同じように、女性に手伝ってもらって洗い終わって。
寝間着を着て部屋に戻ると、結城が待っていた。
「どこに行ってたの? 早くカイさまの所に連れてって。銀砂のことを頼みたいんだ」
焦りを見せる僕に、結城は微笑した。
「心配なさらなくても、カイさまはもう帰っておられますよ。ほら、隣室に」
指したのは、部屋の中にあるもう1つのドア。
カイさまの部屋に繋がっている。
ドアをじっと見つめてから、結城を見上げた。
「じゃ、行く?」
結城も一緒に頼んでくれると言っていた。
視線を受けて、結城は「はい」と返してドアを開いた。
薄い暗がりに、暖色系のスタンドライトが灯っている。
もう眠っているのかと思いながら、足を踏み入れると背中を軽く押された感覚があって、その後、背後のドアが閉められた。
「えっ。結城っ…?」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!