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Honey Flower(本編+SS)
2
◆金木犀 1





 優しくて、柔らかい声が、僕を夢の中から揺り起こす。

――起きても大丈夫だよ、金木犀。もう、大丈夫。起きて。

 ゆっくりと目を開けると、視界に僕を覗き込む土色の瞳が見えた。
 目を覚ました僕を見て、土色の目が柔らかく緩む。

「まだ痛いとこ、ある?」

 ああ、この声だ。
 夢の中でずっと僕を呼んでいた声。

──綺麗で可愛い金木犀。

 大丈夫だよ、目を覚ましても。
 繰り返し繰り返し、歌うように心地良い声で。

「どこも痛くない。…貴方は、誰……?」

 土色の目は緩んだまま。

「俺は銀砂(ぎんさ)。庭師の息子だよ」

「『銀砂』…」

 言葉に出して、唇を動かすと、胸の奥に、何かがぱちりとはまるような音がした気がした。








 その日のうちに、迎えが来た。
 僕が寝ていた場所は、小屋とも呼べそうな小さな家で。
 銀砂が言うには、銀砂と庭師の家族が暮らしているということだった。

 ベッドから覗ける窓からは、素晴らしい庭園が見えた。
 一面の緑の上に広がるのは、色取り取りの花。
 石畳の真ん中に噴水。
 水がせせらぎを作って、きらきらと光を反射させている。
 噴水の向こう側に、城と見紛うような屋敷が見えた。

 迎えの人は全部で5人。
 屋敷から来たという男は結城(ゆうき)という名前で、白と黒の服を着ていた。

「さぁ。カイさまのもとに帰りましょうね。貴方が目をさますのを、一日千秋の思いで待っておいでだったのですよ」

「カイさま…」

 聞いたことのある名前だ。

 結城以外の4人は皆女性で。
 僕の体を蒸したタオルで清潔にして、新しい服を着せた。
 真っ白で、きらきらと輝く小さなあめ玉のようなボタンがついている。
 身支度が整うと、背中を軽く押して小屋の外へと連れ出された。

 粗末な木製のドアを出ると、緑の庭園を抜けた風が髪を煽った。
 目の前には大きな車。
 ドアを開けてくれる、黒い服の人。

 振り返ると結城が立っていて、その後ろに、離れて銀砂がいた。
 土色の目は寂しそうに見えた。

「僕、ここにいたい。銀砂と一緒にいたいの。だめなの?」

 結城を見上げて言うと、一瞬驚いた顔をしてから笑った。

「我が儘は感心しませんね。カイさまが貴方をお待ちです」

「じゃあ、銀砂も一緒に行って?」

 目の前の結城を飛び越して、小屋の壁に背中をつけた銀砂に訴えた。

 銀砂は何か言いたげに唇を開いたが、何も言わずに閉じた。
 視線も合わさない。

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あきゅろす。
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