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Honey Flower(本編+SS)
9
 雲英の疑問を読み取ったのか、都真が顛末を語り始めた。

「紫陽花もエラーが起こっていたんだよ。オーナーを失っては普通ではいられない。これはオーナーに芽生えた情の深さに比例する。
 精神的なことに加えて、エネルギーを上手く受け取ることができなくなっていた。だから実体でいるのが難しくなったのだろう」

「だからオバケになって、『助けて』って言ってたの? あの花のところまで来たんだから、都真に会いに来れば良かったのに」

 ごくもっともなことを並べて菫は紫陽花の手を握る。
 まだ反応らしい反応はない。
 都真はソウに茶を入れさせて、椅子に腰を下ろして「それは無理だな」と返した。

「『花』は一人で『花苑』に戻ることはできない。そうプログラムを組んである」

「? なんで? 僕は帰れるよ?」

「菫は雲英の『花』だからな。雲英には『花苑』に来てもらわないと困る」

 郷愁だろう、と思った。

『花』自身が選んだ主人の元で、ふと湧きあがる里心。
 親でもある都真を恋しがって、帰ってきたりしないように、オーナーとの生活を第一に考えて……幸せになるように、それで。

(紫陽花にとっては、あの低木までが『花苑』に近づく限界だったのか)

 そう思うと、『花苑』に近づくことができない『花』が哀れにも思えた。

 今度は無遠慮に紫陽花の頬に触れる菫の手を、後ろから引き剥がしておく。

「おまえ、ちょっと触りすぎなんだよ。紫陽花は寝てんだろうが!?」

「だって早く起きてほしいもん。何色の目をしてるのか、雲英は気にならないの?」

「我儘ゆーな!」

 目の色を見たく……なるけどさ。
 でも昏睡している相手にベタベタと、おかしいだろう。

 すわっていた都真が、ふと立ち上がって、ガラスケースに近づいた。
 つられて、雲英も紫陽花を顧みた。

 長い睫が細かく震えて、まぶたが動いた。
その下にある二つの目が、色を見せる。
 美しい、藍色と濃桃色、色違いの――。

(オッドアイ)

 雨に濡れた、紫陽花の花の色だ。
 一瞬、息をのむほどに美しい。

 自分を囲む状況が飲みこめない紫陽花は、半分まどろんでいるかのように視線をさまよわせて、やがて都真で止めた。

「都真…」

 都真は滅多に見せない微笑を、愛する『花』に向けた。
 無骨な手のひらが、紫陽花の白い頬を優しく撫でる。

「おかえり、可愛い紫陽花。おまえが救おうとした主人は、無事だよ。よくやったな」

 都真のセリフに、紫陽花は一瞬、はっと目を見開いて。
 色の違う両眼からはらはらと涙をこぼした。
 両手で口元をおさえ、切れ切れに「良かっ……」と繰り返す。

 都真はその隣で、心底ほっとしたように、微笑を浮かべ、紫陽花の前髪を撫でた。













 都真と言葉を交わした後、紫陽花はまた眠りに戻っていった。

 都真のほうはまだ休養が必要だ、と短く言って、自室に退いていった。
 本当に腹の立つマイペースぶりだ。

(要するに、紫陽花のあとのメンテは俺に一任ってことだろ!?)

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あきゅろす。
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