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Honey Flower(本編+SS)
5
 自業自得かもしれないが、菫が別の男のほうに近づいていくとなんとなく面白くない。
 菫の隣、都真の向かいの席に腰を落ち着けると、片頬杖をついて、二人に目をやった。

「シフォンケーキはいかがですか? 生クリームもありますよ」

 くすくす笑うソウが横から差し出してくるのを受け取る。

 ソウはこんなに料理が上手いというのに、そのソウに習っていながらなぜ菫はいつまでもいつまでも、消し炭作りの天才なのだろうか。

(いかんいかん。興味ない話のせいか、意識がすぐブレる)

 あのね、の後、菫はあっさり言い放った。

「聞こえなかったんだよ、何か言ってたのに。初めて喋ったのに。オバケって、喋るんだね」

「菫。視覚検査だけじゃなくて、聴覚検査も受けろ」

 菫を見ていた都真が、じろ、と視線を雲英に移してきた。

「言っとくがな、都真。俺はこいつに何も無茶なことさせてねーからな!」

「嘘だよ、都真! やーらしいこと、いっぱいされてるんだよ。今日だってねぇ──」

 何かとんでもないことを口にしそうな菫を、体ごと抱き込んで、手のひらで口を封じておいた。
 手の中でふがふがと鼻を鳴らす菫を一瞥してから、都真は雲英に視線をくれた。

「『今日だって』何?」

「何、じゃねぇわ。俺でデータ集めんな。さっさとこいつの目玉を修理しやがれ。大きいばっかりでマトモに動いてねえじゃないか」

 都真はつまらん、とこぼしてから、ようやくペンを置いた。

「それで、そのオバケはどこに出る?」

 暴れている菫を抑えていて、咄嗟に返事できなかった雲英に代わって、給仕をしていたソウが横から答えた。

「都真。『花苑』を出て、道なりに行ったところに紫陽花が咲いてるの、知ってる? そこだって。この間、菫に連れてってもらって、僕も行ったんだ」

 ソウから幽霊の居所を聞いた都真は、何か考えるふうに両手を組んでから、自室へ戻っていった。

 何かわかったんだろうか。
 それとも、別件で作業に移っただけ?

(基本がマイペースすぎて、行動動機がさっぱりわかんねえな、あの男は)

 テーブルの上の茶器をトレイへと移動させるソウも、気になっているのか、ちらと都真の後ろ姿に目をやっている。

「『紫陽花』って『花』が、いたんです」

 ようやっとひざの上の菫の口を解放してやる。
 菫は叫びすぎで渇いた喉を、紅茶で潤わし、ほっと息を吐く。

「『紫陽花』…?」

「ええ。オーナー様は初老の男性でした。この温室で取り扱いを説明させていただいて、特に変わった様子もなくお連れになって帰っていかれましたけど」

「『花』ねぇ」

 ただの、名前の一致だと小さく息をつく。

「言っておいて何ですが、関係ないと思います。菫に見えて僕に見えないんですし、やっぱりオバケじゃないかと」

 あっさりと心霊現象を認める発言をして、ソウはトレイを運んで行った。

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あきゅろす。
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