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Honey Flower(本編+SS)
2
「雲英(きら)。オバケって信じる?」

 黒焦げのマフィンを手に、菫(すみれ)が変に青ざめた表情で問う。

 質問の突飛さも気になるが、手の内の炭も多少気にかかる。
 雲英は菫の手から炭化を果たしたマフィンを外して、無言でごみ箱に入れた。

 怒気を含んだ「あっ」という声を上げる菫を膝に抱き、そのまぶたを二本の指で広げた。
 大きすぎる紫の目が、きょろと動いて雲英で止まる。

「何だよ! 痛い! 離せっ」

「オバケを見たのか?」

 目元から指を外して雲英のほうから先刻の質問を蒸し返すと、菫は息を飲んで白衣の胸元を握る指先に力を入れた。
 白い爪先に、薄い桃色が挿す。

「いるの。『花苑』を出た道なりに。ぼうっと立って、僕を見てるの」

 半分透明なんだよ? と大きな紫の目を潤ませる。

「それってオバケだよね?」

「ソウには聞いてみたのか?」

 うん、と菫は頷いた。

「一緒に来てくれてね。見たよ。でもね、ソウは『誰もいない』って」

 やっぱりオバケだよね!? と泣きそうになる菫の目をじっと凝視する。

「ソウには見えなかったのか」

「僕一人にしか見えないって、何か意味あるのかな!? 知らない間に恨まれてたりしたら、どうしよう!?」

 取り殺されるの!? と怯える菫のもう片方の目を指で広げてみる。

「視神経の故障だろうか。見えないソウに問題があるのか、見えている菫に問題があるのか……」

 二人とも検査しないとわからないな、と思っていると、膝の上の菫が雲英の手をぱしっと払いのけた。
 どんぐり目の上の眉根を寄せて、雲英を睨みつけてくる。

「何だ、診ているのに、危ないだろうが」

「雲英! 全然信じてないって独り言が外に出てる! もっと僕に気を使いなよ!」

「あー……声に出てたか。えーと、なんだ。オバケ……心霊現象っていうのは昔から、『幽霊の正体見たり枯れ尾花』といってな……」

「もういいよ! 雲英のバカ!」

 膝からとび降りようとする菫を背中から抱きかかえて、もう一度深く座らせて。
 その白い項に唇を寄せた。

「触る…なぁっ!」

 暴れてもちっとも雲英の力に対抗できていない、でも必至な顔をしている菫を見ていると、思わず笑いが洩れた。

「何笑ってんの、気持ち悪いっ」

「怒ってる菫、可愛い」

 雲英が抱き込んだ体に、きゅっと力をこめると、菫は息を飲んで暴れるのを止めた。
 くったり背中を預けてくる菫の耳元に唇を近づける。
 呼吸を感じたのか、菫は小さく肩を震わせた。

「雲英…や、触る、なぁ…」

 うん、とだけ返して、小さな体をシャツの上から指でたどる。
 それだけで息を乱し、薄桃色の膝頭を薄くすりあわせている。

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あきゅろす。
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