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Honey Flower(本編+SS)
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 そして、語り尽くすと、やっと僕の存在に気づいたかのような顔をして「説明してくれるのかな?」と照れくさそうに言う。
 そこで、やっと僕は話を始めるんだ。
『花』の取り扱いについて。


「今、眠っている『睡蓮』はまだデータが解凍されていない状態です。お引取りになる時は、専用のケースに入れて、お持ち帰りいただきます」

 お客様は、うん、と頷く。

「ケースの外側から、『睡蓮』の名前と、お客様が決めたパスワードを入力していただきます。後から変更は効きませんので、慎重になさって下さいね」

「名前を?」

 お客様は意外だ、と続けた。
『睡蓮』という名前がついているのに、と。

「『睡蓮』は都真が製造識別としてつけている名ですが、ご存知のように『花』は1点もの。この先二度と『睡蓮』と同じ『花』は生まれません。ですから、お気に召しましたのであれば、『睡蓮』と名づけていただいても大丈夫です。愛情をこめて、お客様が名前をプレゼントしてあげて下さい」

 そうだね、とお客様は笑う。
 僕も笑う。

「解凍スタートボタンを押されると、ケースの中で、データが解凍されます。半日ほどかかりますが、完了しますと『睡蓮』は自分の足で、ケースから出てきます」

 お客様の喉が、ごくりと唾液を下した。
 それには気づかない顔をしておく。

「そこから、三日間、『睡蓮』には触れないで下さい」

「えっ」

 聞き間違えたか? と、お客様は目を見張って僕を見る。
 それから困ったような顔をして、言葉を捜して。
 なんとか僕を説得しようとする。

「ソウ。あのね。君は助手だから知らないのかもしれないけど……私はここへ来るまで、随分、都真博士に待たされているんだ。まず、連絡を取るのに何ヶ月も先の予約を取って、プロフィールを送って。それに合格して、やっと面談。そこで私の希望を聞いてもらって、完成までまた待たされて、やっと今というわけだ」

 それなのに、まだ待つのか? という問いに、僕は「はい」と返すしかない。

「お客様が『睡蓮』に受け入れられるまで、待っていただかなくてはいけません。生まれたばかりの『睡蓮』を、三日の間自由にさせてやって下さい」

「『睡蓮』が私を、受け入れるまで…? ちょっと待ってくれ。『睡蓮』は私専用の『花』だな? 専用の『花』が、私を受け入れないなんてことがあるのか?」

 お客様のお気持ちはわかる。
 お客様はここへ来るまで、もう随分待っていて。
 十分なお金も使っておられて。

 それでもやっぱり僕は「はい」と言うしかない。

「『花』はとても、デリケートなんです」

 お客様はぐっと言葉に詰まった。
 その説明は面談の時に、都真がしているはずだった。

「触れてはいけません。話しかけてもいけません。ですが、食事は与えて、光には当ててやって下さい。綺麗な水と光を、たくさん。お客様の手で」

 お客様は複雑な表情で、目を閉じたまま動かない睡蓮を見つめたまま、「わかった」と頷く。

「それで、三日の間に『睡蓮』がお客様に興味を持たなければ、回収させていただきます」

「ええっ!?」

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