Honey Flower(本編+SS)
3
耳を覆いたくなっているのに、両腕は君の手が捕まえていて、音から意識を逸らせるくらいしかできない。
だけど音は確実に鼓膜を震わせてきて、容赦なく頭の中にまで入りこんでくる。
音がどうして鳴っているのか。
君の光る指が、どんな風に動いているのか。
したたる蜜が、どんな風に君の指に絡みつくのか。
ぼんやりと霞がかかった頭の中で、その想像だけが奇妙にクリアで。
熱い息をこぼしながら、僕はうっすらとまぶたを開く。
君からのびた手が、僕にどう触れているのか。
実際に見ることはできないけれど。
「……っ──」
感覚だけ。
体に残る感覚だけが、どうなっているのか教えてくれる。
たっぷりと濡れた奥に君が入ってきて、押し開いてくるのを。
君が触れる場所から、どんどん熱が上がって広がってくることを。
「……は……あ、やめ、怖……」
ずっと何ともなかったのに、ここに来て僕は急に恐怖心を抱いた。
体の中に入りこまれるのが恐ろしく、中で何が起こっているのか解らないことが怖かった。
揺すぶられるまま、中に君を受け入れる。
肌の上を伝い降りてたいく粘液は、自分が染み出したものだ。
君は、最初に見せた目と違う目をしている。
僕を見る、余裕なんて消し飛んだ目。
「すごい匂いだ。さすがは都真先輩の『花』……あの蜜が、僕のあの子を狂わせているようです」
僕の体のずっと下で、白衣の水晶が何か言う。
ポケットに入れていた手は、試験管を拾い上げて、天井に透かして見上げていた。
遠くて見えないけど、中に小さな緑色のものが見える。
それが何かはわからない。
考えている余裕が、僕にはない。
「おまえが採取してきた植物で作った『花』だ。注文通りだろう」
隣で都真が淡々と言う。
水晶は試験管を持ったまま、笑みを浮かべて頷いた。
(“注文通りの『花』”って……僕のことかな……)
霧のかかった頭で何かを考えても、答えが出るわけもない。
意識は、熱を高められた最奥にしかない。
熱くて、熱くてたまらない。
君が怖い目をしているのに、君が欲しくて。
溶かして、僕のものにしてしまいたくて──。
「あ…あ! 何か……」
来る。
勝手にぎゅっと力の入る肉が、君を逃すまいと抱き込んでいく。
君はぶるっと体を震わせて、僕を抱いた腕に力を込めた。
僕もできることなら、君に腕を伸ばして、君を抱きたい。
戒められた両腕は抱きしめることはできないけど、最奥に放たれたものは大事に抱いてあげるから……
ね、君はもう僕のものだよ……
許してね……
…………
「香ったということは『花』はこの子を愛したってことでしょう?」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!