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Honey Flower(本編+SS)
2
「あまり、こうした実験は好きじゃないんだがな」

 ため息の混じった、都真の声が遠い。
 鼓膜が何かに包まれているみたいだ。
 ううん、体全体が何かに。
 全部が熱くて、頭がぼうっとする……それは多分、“君”も同じなんだよね?

 うっすらと霞がかかる視界に、ブラウン系のグラデーションを持った大きな羽が見える。
 四枚の羽根の中心から伸びる長い手足はまるで蔓のようだ。
 手足は僕の体から染み出た粘液に濡れている。
 細かい繊毛の先に、丸くたまった粘液が光を集めてきらきらと輝いていた。
 輝く蔓は、僕の体の反応を注意深くうかがっているようだった。

 少し前。
 ガラスケースの中で目覚めた時、羽と長い手足を持つ君はもう部屋にいた。
 ケースから立ち上がると、君の手足が伸びてきて僕の体を抱き上げた。
 裸身でいるのに不思議と寒くなかった。
 ケースと同じ、ガラスでできたその部屋には、陽光がたくさん注ぎ込まれていて、たくさんの植物が葉を茂らせていた。

 緑たちの中心、部屋の真ん中で、君は羽をふわふわとなびかせて宙に浮いていた。
 茶色をした四枚の羽根は大きくて、暖かい風をふわふわと送ってくるのが心地良い。
 二本の触覚の下、黒くて丸い目が僕を見つめる。
 抱き上げてくれる君の腕に手のひらを添わせて、僕はじっと黒い目を見つめ返した。
 怖いとは思わなかった。
 ガラスケースから君を見上げた一瞬から、君のことを好きになったんだ。

「……水晶(みずあきら)。おまえの趣味をとやかく言う気はないが、あれは蛾の一種なのか?」

 宙に浮いた僕の下で、白衣の両腕を組んだ都真が見上げたまま言う。
 ケースから目を覚ましたときは気付かなかった。
 都真の隣に、見たことのない人が立っていた。
 眉をひそめる都真と違って、甘い笑みを浮かべた青年。
 都真と同じように白衣を羽織って、両手をポケットに突っ込んだままの姿勢で嬉しそうに君と僕とを見上げている。
 君の手が僕の肌に触れた時、水晶はその甘い微笑を満面の笑みに変えた。

「そうです。僕が交配に交配を重ねた、研究の末にようやく生まれた可愛い新種ですよ」

「要するに突然変異ってわけなんだろう」

 唾棄しそうな都真の語調に、水晶は「違いますよ!」と異論を唱えている。

「あの子を生まれさせるのにどれだけの苦労をしたか! いいですか、先輩。僕はね……」

 水晶の声が遠くなっていく。
 繊毛のついた君の手が、僕の肌をなぞっていく。
 染み出た粘液が君の指を濡らして、濡れた君の指は僕の胸元を執拗に撫でてくる。

「……ん……ぅ……」

 僕が知らない僕を、君は知っているんだね。
 きっと君も、僕のことを好きでいてくれるんだよね。

 君の指が生む熱が、そこからじわりと広がっていく。
 熱は熱を呼んで、体全体へと広がって。
 僕の知らない最奥が潤んでくることまで。
 そうすると、僕の体は熱くなって、さらなる粘液を染み出していく。

 君の手足が器用に伸びてくる。
 宙に吊られたまま広げられた僕の脚を伝いあがって、きらきらと光を集めた君の足が最奥を見止めた。
 俯いたまま、ごくりと唾液を飲む。
 様子をうかがうように、繊毛が動くのを肌で感じた。
 腰が勝手にひくりと奮う。
 儚い動きで撫でられているだけだというのに、はしたなく染み出した蜜が恥ずかしい水音を立てている。

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