Honey Flower(本編+SS)
10
「おまえが送ってきた荷物を引き取りに来い! 今すぐにだ!」
シーツの塊がビクッと動いた。
そろそろと端をめくって、泣きはらした顔を覗かせる。
目が合うと、充血した目で睨みつけてくる。
「やだ! 帰らないよ、僕は!」
「なんでだ! 俺は人形に相手してもらうほど不自由してないぞ、見損なうな!」
「違うもん、人形じゃないもん! 『花』だもん! 雲英の無知!」
「だから! 『花』=人形だろうが!」
一気に言い切った言葉の後、シーツをかぶったまま猫のように丸まっている菫は、雲英から視線を落とした。
粒に見える大きな涙を、際限なくシーツに落としていく。
まだ半分寝ているような都真との電話は切っておいた。
「……だめなの? 僕が『花』だから好きになれないの? 僕は雲英が好きなのに。雲英のために作られたのに……」
(都真が“作った”……)
――都真博士の『花』。
伊里はそう言っていた。
都真は昔の知りあいだ。
受け取った名刺にある肩書きは、生花店のオーナーだった。
生花店のオーナーが「仕事を手伝え」と、製薬会社に勤務している自分に誘いをかけた理由は何なのか。
(都真の“仕事”って何なんだ?)
答えは、半分ほど見えている。
「好きだよ、雲英。好き」
繰り返し口ずさむ告白。
熱を帯びた紫色の目。
研究所に訪ねてきた都真の話をまったく聞かなかった昔馴染みに、だからこそ都真は“荷物”を送ってきたのだ。
ぐずぐずと鼻を鳴らす菫のそばに腰を落としながら、ティッシュの箱を手に、二・三枚抜き取った。
豪快すぎる涙と、鼻水に濡れた顔を拭ってやる。
作業の間、菫はじっとして何も言わなかった。
「悪かったな。菫は何も悪くないんだろうさ」
いったい何に対しての謝罪なのか。
人形だと一蹴したことか、一週間箱のまま放置したことか。
菫を好きになってやれないことか。
そんなことを頭に過ぎらせて、雲英は自嘲した。
「なんで笑ってるの。雲英、ホント気持ち悪い。だからいい年して、未だに独り身なんだよ」
むくっと起き上がって、菫は雲英の手から抜き取ったティッシュを鼻に当てて、盛大にかんだ。
一転してスッキリしたような顔を見せる菫に、別の笑みが浮かんだ。
紫色の目がちらっと雲英に視線をくれた。
「せっかく、おまえなんかを、僕が好きになってやったのに」
雲英は色の薄い綿毛頭を軽く撫でた。
「……おまえが俺を好きだと思う感情も、『花』として作られたプログラムなんだよ」
綿毛の髪をふわふわと撫でる。
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