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Honey Flower(本編+SS)
7
 口のへらない物言いだ。
 雲英は空っぽになった缶と、弁当を取り上げて立ち上がった。

「俺の名は雲英。都真とは学生時代の知り合いだ」

「ふーん。友達ってこと?」

「難しいこと聞いてくんじゃねえよ」

 菫は雲英の後をついて回った。

 ゴミを捨てに行くキッチン、服を脱ぐ寝室、一週間ぶりのまともな風呂……。
 ふわふわとシャボン玉が舞うバスルームで、雲英は菫の癖っ毛を洗ってやっていた。
 指にまとわりつく細い髪。
 その向こうで菫が、洗面器に作った石鹸水を、先刻立ち寄ったキッチンから抜き取ってきたらしいストローの先をちょんとつけて、シャボン玉を吹きだしている。

「なんで俺が都真のクソガキの頭を洗ってやらにゃならんのだ。俺なんか、湯に浸かるの一週間ぶりなんだぞ!? 研究室のシャワーはたまに湯が出ないし、使える時間は限られてるし、なんせ残ってる人数は多いし。ゆっくりできるのは今晩だけだっつーのに、だいたい明日からてめえはどーする気なんだよ!?」

「雲英について行くに決まってるじゃん」

「はぁ!? 仕事についてくる!? アホなことゆーな!」

 気楽な口ぶりが頭に来て、シャワーを頭の天辺からかけてやる。

「みぎゃっ! ……鼻に水が入るっ……」

「入れ入れ」

 ぶわっと顔面にかけたのは一瞬だった。
 角度が直撃だったのか、宣言通り、鼻に水が入ったらしい。
菫は激しくせき込み始めた。

「悪い。冗談のつもりで。大丈夫か?」

 真っ赤な顔で涙まで浮かべて。

「くるし……」

 その顔に、ちょっとドキッとさせられた。
 不謹慎だ。
 子供が咳で苦しんでいて、原因は雲英本人だというのに。
 ごくりと唾液を下してから、菫の背中をさかってやった。
 風呂で体温の上がった菫の肌は暖かく、柔らかい。

 さんざんせき込んで鼻水まで見せた後、菫はじろりと雲英を睨みつけた。

「冗談で済むか、ウスラバカ! 絶対、明日からついてってやる!」

 果たして翌日から、雲英の運命は菫の宣言通りになった。










 人ひとり通らない廊下を、光量を抑えた灯りが点っている。
 寂れた旅館の廊下みたいな灯りの下を、白衣のポケットから出したメガネを出して鼻に載せながら歩いた。
 自分の足音より短い間隔を空けて、菫のたどたどしい足が追いかけてくる。

 あれからまた一週間がたった。
 都真からは連絡がない。

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