Honey Flower(本編+SS)
2
嘘だろ──。
宅配で届いた巨大な木箱を見て、雲英(きら)はスーツ姿のまま唖然とした。
仕事帰り。
疲労困憊で、かろうじてコンビニで買った弁当とビールの入ったビニール袋を下げて、ようやっと帰宅した。
実のところ、自宅には一週間ほど帰っていなかった。
荷物がいつ届いていたのかは知らないが、仮預かりしてくれていた管理人が、しびれを切らせて放り込んできたのだろう。
管理人は雲英の親戚筋にあたるからという理由だが、この荷物だけは受け取り拒否をするつもりだった。
無論、管理人にその旨を伝えなかった雲英が悪い。
木箱に貼ってある送り状をはがして、主を確認する。
町はずれの生花店『花苑』。
送り主はその主人である都真(とま)。
丸い几帳面な字は、その本人のものではない。
きっとあの少女が書いたのだろう。
(ったく、いらんっつーのに無理矢理送ってきやがって、あの馬鹿!)
早速、宅配に取りに来させるしかない。
ネクタイを緩めながら、送り状を片手に電話をかける。
すぐに業者に引き取りに来させる。
それしかない。
都真に送り返してやるのだ。
「あ、もしも──」
ごとり。
「……?……」
変な音がした。
『はい、コグマ運輸です。お電話ありがとうございます。本日の業務は終了致しました……』
受話器から流れる流暢な女性アナウンスは、雲英の鼓膜に届かなかった。
受話器を持ったまま、目は玄関に放置した木箱に縫い付けられていた。
どんっ…どんっ…
にわかには信じがたいのだが、音は木箱の“中”から聞こえる。
(な、何。木箱が……内側からたたかれている……だと!? 都真の奴、いったい何を送りつけてきたんだ……!?)
雲英が誤って受話器を取り落した、派手な音がした。
フローリングの床の上を滑りながら、営業用の女性のアナウンスが、同じセリフを繰り返している。
その声はもはや雲英にとってはどうでもいい。
問題は不気味な音を立てる荷物だ。
「…………」
「…………」
箱の外側で鳴った音を感知したのか、中からの音が一瞬止まった。
外側に何者かがいるのだと、中の奴が解したのだ。
雲英がごくりと唾液を下した途端、中の奴は言った。
「おい。そこにいるんだろ? さっさと開けろよ、ウスラバカ。一週間も放置しやがって、ほとほと疲れてんだよ、こっちは」
「────っっ!?」
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