Honey Flower(本編+SS) 2 「はい、お土産。家で待ってる人に」 カップを持たないほうの手に、ぽんとガラス瓶を渡される。 家で待っている人──結城(ゆうき)に。 「カリンってすごく喉に良いの」 「でも、結城の声は……」 し、と人差し指を立てて。 彼女は困っているような顔をして微笑んだ。 「絶対に治らないって、言える?」 「…………」 絶対に治らない。 どの医者も閉口した。 専門家が匙を投げているというのに、彼女は「奇跡は在るのだ」と言う。 答えずにいると、やっぱり笑う。 笑って、今度は白菜の上に綺麗に飾られた箱を置いた。 「これもお土産」 「もらってばっかりだ」 良いのよ、と彼女はお湯割りの湯気を吹いた。 白い蒸気が、水色の空に溶けて消えていく。 「男子がもらってばっかりで良いって日が、世の中にはあんのよ」 「?」 そんな日があるなんて、初めて聞いた。 彼女はカップに唇をつけてから、呆れたような顔で笑った。 あんた、やっぱり何も知らないのね。 「……そうだな」 仕事ができる男だと言われてきた。 結城の支えがあってこその高評価だ。 教えられ、教えられたことだけをこなしてきた。 すると周りが勝手に高評価をくれるのだ。 結城は満足そうに笑っていた。 今の彼女のように。 ──カイさま。それでこそ貴方です。 「……あの箱、中身は何だ?」 空になってもまだ湯気をのぼらせるカップを床に置いて、代わりに軍手を拾いながら、彼女は「チョコレートよ」と返してきた。 「…………」 ころんとした目が見開いてから、笑みに細くなる。 「やっぱり知らないんだ。面白い」 「チョコレートって」 「お菓子よ。これは喉に関係ないから、気負わないで食べて? 甘くておいしいの。もらいものだけど」 「さっき、男がもらってばっかりでいい日だと言ったのに」 「私は男女関係なくモテんのよ。同じ店のチョコは要らないから。こだわりってヤツ?」 正直、彼女の言うことの半分も俺は理解できていなかったが。 空になったカップを置き、白菜の上に置かれた箱を手に取った。 リボンと花で飾られたラッピングは、見かけからいっても上等そうだ。 「『ありがとう』と言って、もらえば良いのよ」 「……『ありがとう』」 結城は喜ぶだろうか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |