Honey Flower(本編+SS)
6
朝が、怖くてたまらなかった。
昨日腕に抱いて、愛を語り合った恋人が、夜明けとともに魂を奪われ、冷たくなっていた。
幾度名を呼んでも、愛らしいまつげは動かない。
冷たくなった体を抱きしめて、呆然と赤黒い夜明けを目にした。
いつしか、何もかも、夜明けが奪って行くんじゃないかと。
目が覚めたら、俺は白い闇にたった1人で立ち尽くしているんじゃないかと。
震える両肩を自分の腕で抱いた。
恐ろしくて、睡魔の手の内に身を任せること到底できなかった。
眠るのが怖い。
眠るのが…。
目が覚めたのは、昼過ぎだった。
カーテンの隙間から入り込む真昼の陽光が、閉じたまぶたを貫いていて。
あまりの眩しさに目が覚めた。
視界に、天井。去年の暮れに作った鳥のモビールが、ふわふわと揺れているのが目に入った。
(…眠れたのか、俺…)
目を擦ろうとして、動かない右腕に、小さな頭が乗っているのに気づいた。
月下香。
暖かい体温と、小さな寝息が伝わってくる。
(可愛い、月下香)
初めて都真博士に見せてもらった時、どこか失ったあの子に似ていると思った。
恥ずかしがり屋で、すぐに視線が揺れるところまでそっくりだ。
眠っているせいか高くなった体温で、頭まで甘い匂いを漂わせる。
髪に口づけると、月下香が体をよじらせた。
「んん…」
長いまつげが小さく瞬く。
睫の奥にある緑の目が、俺を見て、白い頬がほんのり色づいて緩んだ。
「晃。おはよ…」
その笑顔が愛しくて。
月下香を胸に引き寄せて、きゅっと抱きしめた。
暖かい息が、胸にかかる。
月下香と過ごす『ずぅっと』の始まりを、やっと実感できた気がした。
「あ」
ベッドに横になったままパソコン画面を見ていた都真が、呟いた。
メガネをかけ直して、もう一度画面を覗きこむ。
「月下香、ちゃんと目覚めたみたいだ」
これを確認するとホッとするよ、と続ける都真の背後で、僕はこそっとベッドを抜け出してシャツに袖を通した。
(もう、お昼だもん。いくら何でも、お店開けなきゃ変だよ)
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