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Honey Flower(本編+SS)
6
 そんな、心の声が聞こえてくるような気がして。

 幾つも赤い線が浮いた体全部で、私は皓の体を抱きかえしてやる。
 皓のすべてを受け入れて、愛しているのだとわかってほしくて。
 内腿を噛みつかれ、腹に爪先を立てられても、皓を体の内に受け入れる。

「リン…」

 人の手には操れない獣のようでいて、心のうちは小さな子供のようでいて。
 腰を入れてくる熱に翻弄されながら、皓の泣き顔を仰ぎ見る。
 解される暇も与えられない私の最奥は、血を滲ませて皓の熱を飲み込んだ。

「う…く、皓っ…」

 リン、と呼び返す涙声にも余裕はなくて。
 揺すぶられ、体の一番奥を穿たれて、熱い飛沫を受け入れる。

 ぶるりと獣の体躯を震わせて、すっかり元の表情に戻った皓は嘲笑を浮かべ、私の体を見下ろしてくる。
 絵の具に汚れた爪先で、できたばかりの傷ををひっかいた。

「っ…」

「リン、醜い体。酷い傷痕」

 やっぱりおまえなんかを描くんじゃなかった。
 吐き捨てるように言うと、皓は私から体を離して、裸のまま寝台に身を横たえる。

 半身を起こして、軋みを感じる。
 脚に伝う白濁を、今度は冷たいと感じた。
 皓の中にあったときにはあれほど熱かった飛沫さえ、私が抱いた途端、熱を失ってしまうのか。

 無意識に、体のあちこちにできた傷を指の腹で撫でてから、シーツをまとった。
 寝台でいびきをかく皓の頬に屈んで、小さなキスを落とす。

「愛してます、皓。貴方には貴方にしか描けないものが、あるんです」

 貴方は気づいてない。
 貴方がどんなに豊かな才の泉を抱えているか。
 才が溢れそうになっているのに気がつかずにいることを。

(大丈夫。私はずっと、そばにそばにいます)

 貴方が、本心から要らないと切り捨ててくれるまでは。

 清拭剤を使って体を清め、衣服を身につけてから、再び皓の寝顔を覗きみた。
 涙粒を浮かべたままの赤い目元が、力尽きたと言いたげに固く閉じて、いびきをもらしている。
 指でそっと皓の前髪をすいてから、足音が聞こえないよう気をつけて寝台を離れた。

「…………」

 戸棚の小引出に片づけていた薄手の手袋を取り上げ、両の手につける。
 数枚を代わる代わるに身につけて使っているが、すぐに色を染み込ませてしまう。
 汚れの酷いものを、皓の目に止まらないよう、ビニール袋に入れて、塵籠へ捨てた。

 音に気を配りながら引出を閉じて、もう一度、寝台を振り返った。
 気持ち良さそうないびきは規則的に続き、裸の肩がそれに合わせて揺れている。
 私は安堵の笑みを口許に宿し、戸棚の裏側に納めたキャンバスと画材を取り出した。

 皓の知らない場所、知らない画材。
 取り出したキャンバスを画架に立て、一歩離れた場所からそれを眺めた。
 色を重ねたその表面に、空を割る稲妻が光を重ねていく。
 油の臭いが鼻腔をくすぐる。
 絵具を含ませた筆を、手袋の手に持つ。

 一瞬、また寝台の様子をうかがい見る目を、無理矢理にキャンバスに戻して。
 私は稲妻を受けるキャンバスに、更なる色を重ねた。










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