Honey Flower(本編+SS)
3
解凍から目覚めて、月下香が立って俺を見つめていた時。
それまで感じていた眠気が、弾けたようにどこかへ消えてしまった。
俺は、不眠症を患っていた。
一日中、とろとろとくる眠気と戦いながら、仕事のための原稿を片付ける毎日だ。
月下香が来た時から、実は一睡もしていない。
愛らしいこの姿を、一分でも一秒でも眺めていたかったから。
時計を見ると、五時を指していた。
もう『三日目』だ。
綺麗で愛らしい月下香。
君を見つめていられるのも、これで最後かもしれない。
儚い、そして愚かな夢。
……取り戻せるかもしれないなんて。
これは、甘い夢を見た罰なのかもしれない。
(――!)
手に、柔らかいものが触れた。
俺の手に、小さな白い手が添えられている。
手の先に、緑の目を開いて俺を見つめている月下香が、頭を枕から起こしていた。
「どうして、眠らないの?」
月下香が、ベッドの上にペタンと座って、俺の顔を見上げてくる。
緑の目がじっと、俺の目を見つめている。
体が凍りついたように、動けない。
(今、触れた。しゃべった)
確かに、月下香のほうから。
これは、条件の『興味を持つ』に入るか?
――『月下香』がお客様に興味を持った後は、お客様のお心のままに……ご自由に、『花』を扱っていただいて大丈夫です。
「ね。どうして?」
大きすぎる俺のパジャマから、白い喉元と胸元が見える。
華奢な体を、腕に抱きしめる。
頬に、月下香の細い髪がかかった。
白い肌は、信じられないほど、柔らかくて、つい指先に力が入ってしまう。
「…もったいないからだよ…月下香が、ここにいるのに、眠るなんて…」
「ずぅっと…いるのに…?」
耳元に囁かれたこの言葉に、俺の堰は切れてしまったらしい。
手のひらにすっぽり入る両の頬を包んで、唇を重ねた。
うっすらと甘味のある口腔に、くまなく舌を這わせた。
月下香の頬が桜色に色づき、緑の目が苦しげに細くなる。
「…はぁ…なんか、息できな…」
顎から甘い唾液を滴らせる月下香に、もう一度唇を寄せた。
やっぱり、甘い。
軽く触れるだけ、と思っていても、つい舌で味わってしまう。
「もう、やだ…息できないからっ…」
真っ赤になって、俺の腕を逃れようとする月下香を捕まえて、膝に乗せた。
「月下香、可愛いよ」
柔らかい肉の感触が、月下香の体重全部で腿に触れる。
パジャマの前ボタンを外しながら、月下香の襟元に鼻先を寄せた。
(匂い)
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