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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 さくさくと音を立てて、明石が近づいてくる。
 すぐ近くで足音は止まって、明石は僕のそばで片膝をついた。

「何しろ俺は、まだほんの子供だったからね。花井の事業に手を染めていた実績も、俺のものじゃなかった。
 俺には、俺の代わりにフォレストを運営してくれる、大人の傀儡が必要だった」

「それが……三森 葵なの?」

 そう、と明石は頷いた。
 その顔には罪悪感とか、そういうふうな表情はまるでない。
 当たり前のことを、当たり前に語っているだけのような、そんな平静さが返って恐ろしかった。

「葵は完璧な傀儡じゃないけど、よく働いてくれている。そのうち、芳明さんにやってもらっても良いけどね」

 芳明さんのことも、明石は周知だ。

「……お父さまを潰したのに、どうして芳明さんの代になった花井は助けたの?」

「それは、母親を失った君が父親も失ったら生きていけないからだ。
 花井芳明は、君の両親とは根本的に違う」

 根本的に違う……?
 どういうこと?

 僕の過ぎらせた疑問を明石は読み取っていた。

「花井芳明は、汐の言うことを信じない」

 確かにそうだ。
 芳明さんは僕を庇護してくれている。

 でも、信じてはいない。
 僕が言うことを、すべて気疲れからの虚言だと思っている。

 膝の上に置いた拳に、赤い痣が浮かび上がってきた。
 感情の揺らぎに、体温が上がってきたのだろう。

「お母さまを追いつめたのも……同じ理由……?」

「彼女は君を守っていた。慈しみ愛おしんで。だから、邪魔だった。
 俺が去った夜、君は男たちに初めて抱かれたね?」

「…………」

 その夜から、夜という夜の痴態は思い出したくもないけど。

 言われると、思い出してしまう。
 顔にのぼる熱を、どうしようもなかった。

「あれを、彼女に見せた」

「えっ……おか……お母さまに……って……」

「彼女は俺に、汐をくれると約束した。だから、汐は俺がもらう」

「待って。お母さまが見たの!? あの夜の僕を!?」

 明石のシャツの胸元を握りしめて、叫んでいた。

 喉が痛んで、裂けたかと思うほどに。
 握りしめた手がぶるぶると震えている。
 だったら、母の死の理由は明白ではないか。

 震える手を、明石の手が包み込んだ。

「そうだよ、汐。母鳥は一番邪魔だったんだ」

 だから"みんな"を呼んで、僕から思考力を奪い、現場を母に見せてその精神を追い込んだ。

「男に触れられた夜は忘れられなかっただろう? 汐。その夜に消えた俺が、その胸に刻まれただろう?」

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あきゅろす。
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