聖王の御手のうち(本編+SS/完結) 2 僕の体を押し開いて、肉を打ちつけながら“みんな”は言った。 「坊ちゃんを抱けるなら、仕事じゃなくても来たい」と。 「仕事……?」 そうだ、と“みんな”は言った。 雇い主の名前は森村明石。 僕は体の熱が一気に醒めるのを感じた。 森村明石。 明石が“みんな”の雇い主で、僕を襲わせた当人。 僕にそのことを喋った誰かは、次の夜から来なくなった。 どうして来なくなったのかは、知らない。 どういうこと? 明石は数少ない僕の友達の中で、親友といっても良い存在だった。 明石の両親がそろっている頃からうちで働いてくれていて、学校は違ったけれど、うちに帰れば兄弟のように遊んだ。 明石のお母さんが、お父さんに叩かれるようになって出て行って。 お父さんが、追われて屋敷を出て行ったあとも、お父さまは明石に屋敷にいて良いと言っていた。 ずっとそばにいてくれるよね? 大好きだよ、明石。 ……明石はどうして、人を雇ってまで僕を襲わせたのだろう? 明石はお金なんて持っていなかった。 どうやって人を雇ったりできたのだろう? どうして僕を襲わせたの? 僕は明石に憎まれていたんだろうか。 こんな馬鹿な話って…… 「はは……嘘、だよ……そんなの……」 “みんな”にとっては僕が信じようが信じまいが、関係のないことだった。 体をゆすぶられて、中の悦い所を突かれて、声を上げて泣いても、口を突いて出てくる言葉は「明石」だった。 嘘だよ、だって夢でしょ? いつかきっと明石は僕の目の前に現れて、僕を悪夢から救い出してくれるはずなんだから……。 目が覚めたら、やっぱり汗みずくだった。 つんとした甘い匂いと、体液が混ざった嫌な匂いがして。 手のひらに触れる感触は最悪だった。 薄暗い視界に、見慣れた寮の天井と、僕の覗きこむ明石の顔があった。 「あかし……どこにいたの? 僕、ずっとうちで……待ってたのに……」 夢を見ていたせいか、頭の芯が重い。 視界が定まらなくて、ずっと揺れているみたいだ。 それでも起き上がって、明石の体を押し除けた。 明石は上着を脱いだ制服姿で、ベッドの脇にすわって僕を見ている。 表情はない。 明石ってこんな顔だったかな、と不安が過ぎった。 こんな、研ぎ澄まされた刃みたいな鋭利な目をしていただろうか。 べたべたの体のまま横たわっていたベッドは、僕のものじゃない。 部屋も見たことがない部屋だ。 ベランダから見える景色は、暗闇に沈むテニスコートにグランド。 ここは、ネザク寮……? [*前へ][次へ#] [戻る] |