聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
再び、長いすに腰を下ろすと指先に先刻の雑誌が当たった。
閉じたままでも、うっすらとフォレストのページが浮いている。
(汐ちゃん。これを見て、気分悪くなったように見えたけど)
確かに気分が良い記事だとは言えないけど、体調崩すってほどでもなかった。
ただの成功体験談だ。
(心労の度合いかなぁ。汐ちゃん、繊細そうだし)
思えばこれから、汐にはまだ話が行っていないだろうけど、“姫”の問題もある。
今後どう動くかはわからない。
なぜだか、鷹宮家令なんかは相当乗り気だし。
今後、最悪の展開として受位尚書を書くことになるかと思うと、今でもつらそうにしている汐を見ている分、気が重い。
聖王会の中にいる人間として、できるだけのことはしたい。
阻止できるものは、阻止してあげたいと思う。
またドアが開いた。
汐が戻ってきたのかと思って、慌てて立ちあがると、顔を覗かせたのは基山譲だった。
「なんだ、ユズか……あ、汐ちゃんなら先に寝るって言ってさっき出て行った」
伝言を伝えていると、乾燥機のブザーが鳴った。
僕が入れたやつだ。
近づいて行って、ブザーを切る。
蓋を開けて、中から出した衣類をビニール製のバッグに詰めていく。
畳んだりするのは、部屋でいい。
「そっか。疲れた顔してたしな。……なんか、変なこと言ったりしなかった? 汐」
「その雑誌。あっ、僕のじゃないよ? フォレスト代表の成功人生みたいのが載ってて。それ見て気分悪くなっちゃったみたい」
やっぱ疲れてるときに細かい活字は良くないって。
後半の台詞は聞こえていないらしく、譲はどっかと腰を下ろしてくだんの雑誌をべらべらとめくって行った。
「フォレストって何だったんだっけ? なんかの会社の名前?
あー……代表の人、三森っつーんだ。森でフォレストか、単純なネーミングだな」
しゃべりながらページの文章を目で追っていくスピードが、尋常じゃなく速い。
「汐のお父さんの会社、フォレストに潰されかけてて。心労でそのまま亡くなってしまった、って。でも今盛り返しているのも、フォレストの援助のおかげだって、汐の叔父さんが言ってた」
あっさり話し出す譲の様子が、なんとなく妙だと思った。
噂話じゃない。
本当のことだ。
誰が聞いているかわからないランドリー室なんかで言うような話じゃない。
「……ユズ、なんかあっさり言っちゃってるけど。それって、汐ちゃんにしたら相当大変なことだよ? いたわってあげなきゃ、だよ」
説教したつもりはなかったけど、譲は慌てたような顔で返した。
「いや、あっさり言ったわけじゃ。もちろん、そうだよ。汐をサポートするつもりだよ」
「ややこしい話だけど。汐ちゃん家の事業、潰したのがフォレストなら、復活させたのもフォレストってこと?
潰れたのって、フォレスト側に悪意があったから? それとも汐ちゃん家側の能力が追いつかなくて、単にこぼれていっただけ?」
僕の台詞を聞き終えると、譲は苦虫を潰したような顔をした。
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