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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
 寮に入りたてのときは、そりゃもう寂しくて、ホームシックにかかったりする生徒も出てきたりはするんだけど。
 高等部にまでなると、親兄弟がそばにいないのが当たり前で。

 たまに面会などと言われて山の中まで会いに来られると、自由にしていた己の日常のどこが悪かったのかと、怒られる理由を考えてしまう始末だ。

 編入生の汐が、夏休暇に実家に帰って、里心がつくのも無理はない。
 でも、相手は仕事を持つ大人なのだ。
 そうそう子供の言うとおりになんか動かない、面倒な相手だ。

「仕事仕事って言うんだよね、盾みたいにしてさ。もー、大人ってホント不便だよねっ」

 だよね、と小さく笑ってから、汐はまた雑誌に視線を落とした。
 浮世離れして見える汐でも、聖王の噂なんかに興味を惹かれたりするんだろうか。

「汐ちゃん、知ってる? 聖王陛下がフォレストの御曹司だって話。その写真の人って、陛下のママに見える? 親子じゃないのかなぁ、ママにしては若く見えるよね」

 修正入ってんのかな、とどうでもいい一言をつけ加える。

 瞬間、汐は「え」と時を止めてしまったみたいに、吃驚した表情を固めていた。

 森村明石がフォレストの御曹司だ、という話は馬鹿馬鹿しいほど広まっていて、学園にいるほぼ全員が知っているような話だ。
 改めて話題にするのもはばかられるほどの。
 別に、今更驚くようなことを言ったつもりじゃなかったけど。

(あ。聖王会に酷い目に遭わされてる汐ちゃんに、聖王の話なんか出したのって、マズかった!?)

 ちょっとだけ冷や汗が出る。
 話題選びにデリカシーがなかったかもしれない。

「フォレストの御曹司、なの? 明石……さま、が?
 この人が、明石のお母さん……? ……ううん、違うよ、この人は明石のお母さんじゃ……
 …………」

 また雑誌の写真に視線を落として、汐はつぶやいた。

「三森、葵……ミモリ、アオイ……
 ……アオイ……?」

 見る見るうちに、汐の顔色が白く変わっていく。

「汐、ちゃん? 大丈夫? どうしたの?」

「……あ」

 我に返ったような顔をしてから、汐はふらりと立ち上がった。
 衣類の入ったバスケットを抱えて、作り笑いを浮かべる。

「僕、そろそろ行くね? もし会ったらで良いんだけど……談話室には戻らないで、先に休むから……譲にそう伝えてもらえない……?」

 白い顔色に小さな汗粒を浮かべて。
 入ってきた時は普通に歩いていたのに、足取りもちょっと怪しい。

 倒れそうにも見える汐のすぐ横に立ち上がる。

「ユズには言っておくけど。部屋までついて行こうか?」

「ううん、大丈夫。あの、ごめんね……気にしないで。寝れば治るから」

 おやすみなさい、と続く汐の台詞に、後ろ髪を引かれながらもおやすみと単純に返しておくことにした。
 小さな子供ならいざ知らず、本人が大丈夫だと言っている以上、むりやり付いていくのも変だ。

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あきゅろす。
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