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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
6
 森村明石の話?
 四年前、森村明石と花井汐はそれぞれ幾つだった?

 そんな子供二人が、一人は男を複数雇って友達を蹂躙させて失踪。
 もう一人はそれを受け入れて、自分を窮地に立たせた友達の帰りを待っていた。
 どちらも信じられない。

 ──理解不能だ。

「……えっと……ごめん、汐。俺……なんて言って良いか……」

 言葉が一つも見つからない。
 何の前触れもなく、さらりと話して聞かされた話の内容が、あまりにも重くて。

 軽い言葉で何か慰めることなんて、無意味のように思えた。
 だけど、代わりに何を言えば良いのか、俺の頭には何の言葉も浮かんでこなかったのだ。

 そうだよね、と汐は同じ語調で言った。

「逆に、僕が譲にこんなこと言われても、すっごく困ると思う。困るってわかってて譲に言うんだから、これ悪いことだね、きっと」

「いや、悪いことじゃない。俺に話してくれて、信頼してくれて嬉しいと思う」

 汐は吃驚したみたいに目を大きく見開いて、ついと視線を外した。

「……ありがとう。ごめんなさい、困らせて。
 譲に、話したのはね。その理由はね、ずるいけど多分、誰かに話したら、ちょっと楽になれるんじゃないかと思ったのと……」

 続く理由のもう一つは、想像できる気がした。

 数日前。
 夏の休暇に入る前、俺は汐に思いを告白していたから──。

「譲には、ずっと僕の友達でいて欲しいと、思ったから」

 うん、と頷く。

「譲は僕の、二番目にできた友達だから、すごく……大事なんだよ…」

 そこまで壮絶な過去とそれに付随している思いの深さを聞いて、汐に応えてほしいなどと言えるわけがなかった。
 これまで誰にも言えなかった話を、言葉にして口に出すまで、どれほどの勇気が要ったことだろう。

「でも、話を聞いて僕のこと嫌になったなら……帰ってくれても良いんだ。僕は聖風にはいないほうが良いのかもしれないんだし」

「学園を辞める気か? 嘘だろ? まさか、森村明石のために?」

 汐はぼんやりした顔で「わからない」と首を横に振った。

 汐の記憶にある森村明石は、子供の頃のたった一人の友達だった森村明石なのだろう。
 今の聖王とは、まったく違う、ただの子供だった森村明石。

 何が彼を変えてしまったのかはわからないけど、汐が学園にいなければ、森村明石は学園で一生徒としてすごしていける可能性はある。

「じゃあ、天野さんのために?」

 汐は苦笑を浮かべて、今度は「どうかな」と返した。
 どうかな? と俺は頭の中で、同じ台詞を繰り返した。

 家令 鷹宮雅臣が汐に対して無茶な呼び出しをかけた晩、汐は天野司酒長に救われて帰ってきた。

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