聖王の御手のうち(本編+SS/完結) 2 「あのね。夏の休暇に、うちに来てくれない?」 俺の告白とまったく繋がらない返事がそれだった。 話を聞いた高美はさすがに、「言ったんだ……」と呆れたような顔をしてから、「汐ちゃんの家、行ってきたら?」と笑って俺の背中を叩いた。 「そこまでやったら、振られた後も踏ん切りが着くってもんじゃない?」 ……端から"振られる"決定かよ。 俺は汐のその言葉通り、電車を乗り継いで、バスに揺られて。 汐の叔父の家というところにたどり着いた。 「家っ……つーか、お屋敷……汐、お坊ちゃまだったんだ?」 洋風のお屋敷と並木を背景に、汐は「全然そんなことないよ」と言った。 そんなことあるだろ! この非常識人め! だけど少し、変だと思った。 大きな玄関前のロータリーを通り過ぎて、汐はいかにも本宅といった建物を抜けて、小さめの離れっぽい建物に向かった。 小さめと言っても外からは部屋の数もよくわからないぐらいの規模だが、少なくとも先述の本宅よりは小ぶりに見える。 (本宅、じゃなくて離れに住んでるんだ?) 本宅はもっと金持ちの客を出迎えるための場所とか? 中流家庭に生まれ育った自分には、想像するテーマが大きすぎる気がして、少し考えてやめた。 せっかく汐が招待してくれたんだから、楽しまないと損だ。 玄関を開ける前に、家政婦さんっぽい風貌のおばさんが出てきて、汐と俺を出迎えてくれた。 「お世話になります。汐のルームメイトで、基山譲です」 おばさんは「まぁ! まぁ! 坊ちゃんにお友達が!」と大げさに驚いて、ミヨコという可愛らしい古風な名前を名乗った。。 "坊ちゃん"……やっぱり良いところのお坊ちゃんなんじゃないか、と汐を横目で見たら、「違うって」とふくれられた。 ふくれた顔も可愛い、とヨコシマなことを思った。 「明石くんとちょっと感じが違うけど、賢そうなところは一緒ですねぇ」 「えっ、"明石"……」 ミヨコさんが、俺の反芻を聞いているのかいないのか、うんうんと頷いて中へ入って行った。 汐も聞こえなかったみたいな顔をして、その背中に続いていく。 ("明石"ってあの、聖王 森村明石のことか? どうしてミヨコさんが、森村明石を知ってるんだ?) どんどん奥へ進んでいく二人には問えなかった。 広い玄関を抜けて、それぞれの部屋に案内されて(そしてその美しさに吃驚させられて)。 夕方のバルコニーで、ミヨコさんが入れてくれた紅茶を飲みながら、汐と二人で夕食を待った。 バルコニーの手すりに持たれて、汐は何か考えるふうにしていたが、やがて俺の隣の席にすわって、ティーカップに口をつけた。 「譲。好き嫌いはないよね? 夕食何かなぁ、おなか空いたね」 クッキーも出してくれれば良かったのに、とふくれる。 夕食前にだめだと、ミヨコさんに止められたのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |