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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 場所は違っても学園があるのは山地で、全寮制であることには変わりがない。
 編入してきた明石を受け入れる形で、俺たちはルームメイトになった。

(なんか……絡みづらいヤツ……)

 明石は無口だった。

 だが、一緒に暮らしていて不便のある相手じゃない。
 綺麗好きで、明石の領分はいつもきちんと整頓されていた。
 大雑把な俺が、明石の机から辞書を借りたのも一度や二度じゃない。

 物静かで、音楽やテレビを楽しむという趣味もない。
 時間がある時は、ブックカバーのついた本のページを静かにめくっていた。

 何を読んでいるのか気になって、タイトルを聞いたことが何回かある。
 それは小説のタイトルであったり、古典文学だったり、ビジネス書だったり、評論本だったり、科学書だったり。
 ジャンルは多岐に渡っていて、とても俺がついて行けるような読み方じゃなかった。
 乱読、というやつだと思う。

「面白いのか?」

 問うと「ああ」と短く返ってくる。
 返事にもう少しサービスが欲しい俺だったが、没頭している明石にそれ以上質問を投げるのも気が引けて。

 代わりに、こっそり読んでいる本のタイトルを盗み見た。
 暇な時間があると、図書室で同タイトルの本をぱらぱらとめくってみるぐらいはした。

 不思議な空気をまとう編入生への興味は尽きなかった。






 明石が決して手放さないものが一つある。
 そのもの自体をはっきり見たことは、高等部に入った今でも一度もないが、明石のポケットにいつも忍ばせてあるもの。
 それは携帯電話だ。

 学園では持つのが禁止されていて、どこかにかけたい用事ができた者は、寮にある公衆電話を使う決まりになっている。
 だけど、明石だけは許されていた。
 それを許していたのは多分、前聖王なのだろう。

 ポケットの中のものが震えると、同室である俺にもわかる。
 明石は何事もないような顔をして、部屋を出て行くから。

 後をつけて、何を喋っているのか聞いてみたい衝動にかられていた。
 公衆電話で間に合わないほど、時間を空けることを許さない用事とはいったい何なのか?
 もっとシンプルに、電話の相手が誰なのか?

 ある夜、壁側に向かってベッドに寝転んでマンガを読みながら、半分うとうとしかけていた、消灯時間前。
 明石の携帯に着信があった。
 いつものように静かに震える音。

 俺は、マンガ本を開いたまま、まぶたを閉じた。
 一芝居うつことにしたのだ。
 俺が眠っているとわかれば、明石は部屋にいるまま、俺の前で電話に出るんじゃないか?
 馬鹿な好奇心を抑えることができずに、思いつきを実行した。
 
 果たして、明石はその場で通話キーを押した。


「──はい」

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