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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
「えっと……。後で聞くことにするよ。ここ、僕たちの部屋?」

 そうだ、と返すと、手の中の鍵を小さく鳴らして玩んだ。

(……何だったんだろう)

 後回しになったことが妙に気になる。
 ただ単に、聞こうと思った時に部屋の前についてしまった、というタイミングの問題だと思いたいが。

 ドアを開く。
 奥から順に、ベッド、机、ロッカーが左右対称に並んでいるだけの部屋だ。
 一番奥に猫の額ほどのベランダがあるが、洗濯物を干してしまえば出ることはできない。
 山の中で景観だけは良いと言いたかったが、あいにく見えるのはプールと、その向こうにある体育館の側面だけだ。

「男子校でプールが見えたところでな」

 軽口に対して、汐は律儀に「そうだね」と笑って見せた。

「あと二つの寮のベランダからは何が見えるのか、譲くんは知ってるの?」

「いや、実際に行くことなんかないけど。立地から言って、見えるのはグランドだけだな。ネザクからは、グラウンドの奥にテニスコートが見えるけど、それだって男子校で見えてもどうしようもないだろう」

「確かに。それもそうだね」

 女の子みたいな顔で同意されると複雑な気持ちになるが、そこは黙っておく。

「向かって右側は俺が使ってるから、今空いてる左側に入ってもらえると助かるけど。どうしても右じゃないと、ってことなら、お互い今晩から荷物整理ってことになる」

「? 『どうしても右じゃないと』って、どんな理由?」

 笑いながら問い返してくる。

「例えば、ベッドはベランダ側が頭だからさ。『左側が壁じゃないと眠れない体質なんだ』とかさ」

「ないない。左側を使わせてもらいます」

 こっちもそう言ってもらえること前提で、本人より先に到着したダンボールたちを、空いたベッドに積んでおいた。
 数はそう多くない。

「どうする? 先に寮を見ておく? 荷ほどきするなら手伝うけど」

「この後、夕食まで少しなんだよね。先に寮の中見せてもらおうかな。荷ほどきなら晩にできそうだし」

 そういえば昼食べそこねた、と腹に手をやっている。
 俺なら、一食抜けたら大騒ぎだが。

「晩に荷ほどきなぁ。まぁ、懐中電灯もあるし、何とかなるかもな」

 早速、部屋を出ると手にした鍵で部屋を閉めながら「懐中電灯?」と返してきた。

「そう。晩動くなら部屋ん中でも懐中電灯が要る。9時半消灯だから」

「えーっ。早すぎない?」

 それは、外部編入と同じ身の上だった俺も同感だった。

 メールボックスから、浴室、洗濯室、ホールに資料室ときて、汐に初めて会った談話室に戻ってきた。
 夕方になるとそれぞれの部活から帰ってくる寮生もいて、汐は取り囲まれていた。

 結局、汐が途中で飲みこんでいた質問を耳にしたのは、片手に懐中電灯を持って作業する時間帯になっていた。

「光、洩れないように気をつけて。見つかるとまずいから、とり急ぎ必要なものだけ出すようにしよう」

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あきゅろす。
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