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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
1
 悲惨の一語に尽きる。

 すぐ横を半歩ほど下がって従いてくる花井汐を振り返る。
 俺の視線に気づかない汐は、ぼんやりと視線を滲ませて、ふちの赤い目元に睫の影を落としていた。
 何を考えているのだろう。

 見つかった時、ほとんど裸だった彼に、明石は制服の上着をかけてやっていた。
 それから数時間後、明石の個室から転がるように出てきた花井汐は、上着がバスタオルに変わっただけで、見つかったときとほぼ同じ格好だった。
 バスルームも完備されている聖王の個室で、いったい何をしていたのか?

 その後、俺がネザク寮の風呂場に案内し、彼が入浴している間に、寮に備品として置いてある新品の下着とジャージ上下を準備した。
 着るものを着て、少しは落ちつきを取り戻しただろうか。

 喚いたり泣いたりしても当たり前だと思うのに、花井汐は不思議なほど静かだった。

「歩くの、速くない? 大丈夫か?」

 声をかけると、はっとしたように目に色を戻して。
 頼りなげに俺を見上げて「だいじょうぶ……です」と返した。

 おそらく歩くのも辛いはずだ。
 それ以上振り返らずに、歩調だけ緩めた。

 編入して早々、接見に遭い、制裁に遭い。
 どれほど聖王会に追われることか。
 裏では明石が名前も告げずに近づいていたとか。


──西のアーチには誰もよこすな。


 西のアーチ。
 花井汐が、一人震えて身を隠した場所。

 明石がアーチに足を踏み入れて出てきた時には、その腕に花井汐を抱きかかえていた。

 明石は、普段あまり見せない表情を浮かべていた。
 微笑を、浮かべていた。
 それも、プレゼントを目の前にした子供のような。

 花井汐のほうも、まるで幼い子供のように、細い腕を明石の首に巻いて。

(花井汐は、信頼しきっているように見えた。明石を自分を救う者として)

 それ自体もおかしなことのように思えた。

 鷹宮家令が先走って花井汐への接見を進め、東原王軍長に無体を働いたとき。
 駆けつけたのは明石と、天野司酒長とわずかな王軍を連れた俺だった。

 だが、花井汐が最初に助けを求めたのは明石じゃない。
 天野さんだ。
 明石じゃなかった。

 転じて今夜は明石を求め、そしてその個室で悲鳴を上げた。
 明石が部屋で何をしたのかは知らないが、俺に浮かんだ疑問点はそこじゃない。

 いったい、花井汐は明石を受け入れているのかいないのか?

(ま。明石は普通の感覚の人間には、到底受け入れられる人間じゃないけどな。変人だし)



 森村明石。

 明石と最初に出会ったのは、まだ高等部(ここ)じゃなくて中等部にいた頃だった。

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あきゅろす。
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