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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
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「梅。今までどおり、王軍にいて聖王会と生徒たちを守れ。ただし、おまえは王軍のトップから下ろす。聖王の思惑からはずれる者を、トップに置いておくわけにはいかないだろう? しかし、心意気は認めよう。これまで王軍長としての働きに報いよう。茂孝の下、存分に動け」

「明石……っ、そんな……茂孝の下でなんか、俺は……」

「聖王を守りたいと言った台詞は、偽りか?」

 梅は顔色を紙のように変えて、首を横に振った。

「茂孝。梅をコクマに戻して。その後、王軍解散して良い」

「わかりました」

 茂孝の返事を待って、きびすを返した。

 王軍は明日から新しくなる。
 まだ西のアーチには汐がいるはずだ。

 背中に追ってくる、梅の「明石」と呼ぶ声を聞き流して西のアーチへ向かった。







 もう何もないの、許してちょうだい。

 彼女は涙を流して、切々と訴えていた。
 俺は彼女のきれいな顔をじっと見つめた。

 白磁の頬は泣き濡れて、薄いばら色に染まっている。
 裾まで長く白い寝間着にモスブルーのガウンを羽織って、その肩によく手入れされた緩い巻き毛が零れている。

 大きな目を悲しげに伏せて、黒いまつげに涙粒を浮かべては流れるままにして。

 俺はただ何も言わずに、じっと彼女の言い分を聞いていた。
 壁際から流れてくる煙草の煙に、彼女は小さな咳をくり返していた。
 俺にはその煙を止める権限があった。

 だが、哀れな彼女のためには、その権利を使うことはしなかった。
 彼女は哀れではあったが、脅迫者である俺に力なく反旗を翻していたから。

「本当よ。本当にもう何もないの。許してちょうだい」

 嘘だ。
 貴女は嘘を言っている。
 そんな儚い反旗、認めてあげない。

 それとも、貴女自身見えてないの?
 当たり前にありすぎて、見えてないの?

「じゃあ汐をください。そうしたら、貴女を許してあげる」

 貴女が人の目には見えない両の翼を広げて、金の卵を隠し守っていることを──。







 西のアーチの入り口で、茂孝配下の兵士が、誰かと言い争っていた。

 その後ろに、制服姿の生徒が静かに二人を見つめている。
 兵士と言い争っているほうの生徒は、ジャージ姿ですらりと背が高い。
 会ったことはないが、書類で見知っていた。

 制服姿の生徒と兵士が、アーチに近づく俺を見とめた。

「聖王陛下」

 制服姿のほうは見知っている。
 ケセド司酒長 天野有帆。

 はっと振りかえってくるジャージのほうは、同じくケセドの一年生で、名前は基山譲。
 汐の同室寮生だ。

「ごくろうなことだな。庭園まで見回りするのか、ケセド司酒長は」

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