聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
「ユズ、良かったねぇ。退屈な日々が薔薇色になりそう♪ 文字通り"薔薇色"になったら、面白いから僕にも教え――」
「高美。おまえ、この後、会議だっつってたろ! 早く行けよ」
追い出すように言うと、高美は談話室の柱時計に目をやって「まずっ」と吐いて慌てた。
「んーじゃ、僕行ってくる! 汐ちゃん、またね!」
一方的に言い捨てて、高美は談話室を走り去って行った。
会議室はネザク寮にある。
毎度毎度、ご苦労なことだ。
「あの、基山くん」
ひっそりと立っていた花井汐が、遠慮がちに口を開いた。
本当にちっちゃくて可愛くて、女の子みたいなヤツだ。
なんかのドラマみたいに、実は女の子とかないよな?
(良いのか、全寮制男子校なんかに入ってきたりして)
「何でも聞けよ。あ、俺のことは譲で良いから。高美はユズって呼んでるし、どっちでも好きに。
苗字で呼ぶのは先輩だけな。それはケセドの中のルール」
えっ、と驚いたような顔になる。
表情が動くと余計可愛い。
「それって、天野さんが決めたの?」
「そう。細かいことに気が回る人だからな。
それで、さっき聞きかけたのって、何?」
質問するのをためらうように視線をあちこちにやってから、汐は俺を見上げてきた。
「あの……広瀬くん……じゃなくて、高美くんの"ショウショチョウ"って……何?」
ああ、と零れた。
俺も入ってきて初めてぶつかった疑問がその辺だった。
「尚書長。尚書院の院長。つーてもわかんねーよな。
生徒会ってあるじゃん、どこにでも。あれに当たるのが"聖王会"っての」
生徒会なら聞き慣れているようで、汐はうんうん頷いて「"せいおうかい"」とくり返した。
「ん。聖王会ね。
尚書長つーのは、要するに生徒会でいうなれば、書記に当たるわけ。
まぁでも、生徒会とはちょっと毛色が違うかもしんねえけど。その辺りは追々な」
それなら合点がいくといったふうに、汐はこくこく頷いた。
確かにここまでは俺も理解できたんだよな。
とにかく寮を案内する前に、俺は汐を部屋に連れていくことにした。
見たところ手荷物は少なそうだけど、手が軽いに越したことはないだろう。
談話室を出て、廊下を歩きながら汐に部屋の鍵を渡した。
「ありがとう。これ、キーホルダーとかつけて良い?」
なんか、ヘンなことを聞くなぁ。
そんなの勝手にしろってところだけど。
「自由にして良いぞ」
「そっかぁ。何つけようかなぁ」
嬉しそうな表情を浮かべる花井汐を、横目でチラ見しながら、二階への階段を上った。
珍しそうに視線を動かしている汐を見るのは、楽しい。
寮内の案内も楽しい作業になりそうだと思いながら部屋の鍵を開けていると、汐がじっと見上げてきているのに気がついた。
造りが好みなだけに、見つめられると変な気になる。
「え、どうした?」
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