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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 まだ蔓が成長しきっていない針金が、そのまま剥き出しになっている箇所もある。

(馬鹿な汐)

 どうせなら東側にするべきだった。
 針金すら隠せない蔓薔薇なんかに、どうして身を託せたのか。

「……は……んん……」

 断続的な呼吸音。
 人工的な甘い香り。

 体液に混じり合って熱を籠もらせた匂いは、侍従長 川上修司がよくまとっている、試薬の匂いに似ている。

 君は細い体を腕で支えて、でも支えきれてなくて。
 肩口の破れたシャツは、何もないよりはマシだったね。

 もし、細い首筋があらわになっていたら、月光の下で、青く浮かぶ血管を見つけて締めたいと思うヤツがいたかもしれなかったよね。

 濡れて光る肌は青白くて、あの晩を思い出させる。
 ただ一度しか見なかった汐の姿は、それまでの数年間見守ってきたはずのあどけない君を、すべて上書きしてしまったみたいだ。

「たすけて……あかし……」

 目がうつろに視線を漂わせる。
 俺の上を通って、またどこかへ行ってしまう。

“森村明石”を見止めているわけじゃないのに、汐は“明石”に救いを求める。

 あの晩と同じに。
 男たちに金をバラまいて、屋敷に引き入れた当の本人に、救いを求めて手を伸ばす。

「もういいよ。汐」

 汐に乗りかかっていた生徒を殴りつけて、その横に膝をついた。
 汐は傷だらけの脚をゆっくりと閉じて、「明石……?」と問う。

 ここに森村明石がいることが、信じられないみたいな顔だ。

 そういえば、まともに向きあうのは四年ぶりだ。
“あの晩”別れて以来。

 頷きながら、着ていた制服の上着を汐の肩にかけてやった。

 散々泣いた後のような頬に、一筋涙粒を零していく。

「聖王が……明石が、僕を襲わせたの? あの晩みたいに……明石が“みんな”を呼んだの……?」

 二つ、質問していることに気づいているだろうか。
 答えかけて、唇を閉じた。
 前者と後者は答えが違う。

「……いい子にしてて、汐」

 大粒の涙を次々とこぼす汐が、嗚咽をあげている。

 泣き虫なのは、あの頃と変わらない。
 慰めない俺も、あの頃と変わらない。

 君の前に腰を下ろして、じっと見つめた。
 こんなに綺麗なものを、まるで無限のように流していく君が不思議だったから。

 さくさくと芝生が鳴る。
 アーチを出ると、まともに月光をくらって目を細めた。

 片づいている。
 逃げていたほうの王軍の姿はない。
 目の前に堀切茂孝と数人の兵士、捕らえられ膝をつかされた梅がいた。
 俯きかげんの梅にちらっと見える顔は、表情がない。

「確保完了しました」

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あきゅろす。
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