聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
自分から手を伸ばして、余すところなく味わおうとする自分自身を、心の中で引き留める。
夜の闇から伸びてきて、増えていく黒い手が、甘い匂いのクリームを伸ばしていく。
体温でとろけていくのか、クリームはいつの間にか液体化していて、甘い匂いに濡れた手が別の場所に触れるたびに、鼻腔を抜けてくるようだった。
新たに濡れた場所が、じわりと熱を孕む。
いつの間にか張りつめた前を、誰かの指の腹がきゅっと握った。
優しく握る手のひらを、もっと絞ってほしいと邪念が浮かんだ。
快感に雫を滲ませる小さな切りこみに爪先を食い込ませ、薄皮を剥くように上下させる。
雫とクリームは混じり合い、淫靡な水音が耳に聞こえるようになった。
「んっう……ぁ……つい……やだ……ぁ……」
下腹が熱い。
ゆるゆると上下する手の速度が少しだけ上がる。
リズムに合わせるようにして、いやそれ以上の刺激を求めて、腰が揺れている。
「表情が、変わったね……効いてきたかな」
王軍長の冷然とした声が聞こえるけど、顔は上げられなかった。
時折、ふるふると首を横に振る。
違うの、これは僕じゃない。
僕はもう、何もできない子供じゃない……
でも、熱いの。
熱くなったところに触れて欲しくて、たまらなくて。
早く……早く、終わりたいの……
「……ひっ……!?」
別の手がクリームを後ろに導いて行った。
敏感な入口を指先と、もっと熱を持った舌先で押し開いていく。
起こしかけた上半身を、また芝生につけて、入りこんでくる気持ち悪さを受け流した。
吐く息の音が、大きい。
「んっ……んぁぁ……やぁっ……」
狭い口を開かれているというのに、痛みはなかった。
じんじんと湧きあがる快感が、奥へ奥へと溶けて流れこむようだ。
中をかき混ぜるように動く指を追いかけて、僕の視点はひたりと動きを止めた。
口元に近い自分の指に舌を絡めて、最奥の肉壁を行き来して音をもらすそこを、ひたすら頭に思い描いた。
前で上下に擦る手と、後ろを混ぜ広げる指。
自然に、もっと強い刺激を欲しがる腰が、揺れて止まらなくなっていた。
「ふふ……。ずいぶん、気持ち良さそうになってきたね。ね、花井汐。君、これが初めてじゃなさそうじゃない……?」
嘲笑を含んだ声。
片膝を着いた王軍長の靴が、僕の左手を踏む力を入れる。
月光の下、体温の上がった手に痣が浮かび上がっている。
何度も何度も、執拗に踏み込まれた“あの晩”を思いだす。
腫れて、傷口が裂けて血が滲んでも、まだ明石の外靴は僕の手にあった。
熱くて、熱くて。
手だけじゃない。
体中、“みんな”が触れるどこもかしこも、軋んで裂けてしまいそうで。
「ひぁっ……ああ……」
僕の体の中に、誰かが入りこんだ。
熱に押し広げられる質量は、それまでの指なんかとは比べものにならない。
喉元まで突きつけられた肉が、僕を内側から溶かしながら貫いてくる。
「あっ……んん、息っ……」
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