聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
1
一言で言えば「お人形みたい」という顔だ。
ちっちゃくて細くて、なんで男子校の寮に女の子がいるんだという第一印象。
「ユズ。涎出そうな顔してるー」
隣に立っていた同じ一年生の広瀬高美(ひろせ たかみ)が、俺をからかってげらげら笑った。
思わず口元にスウェットの袖口をやってしまったのが、余計高美の笑いのツボにハマってしまったらしい。
げらげら笑いは最高潮に達した。
まったく人をネタに日々の楽しみを見いだしやかだって、高美はろくな奴じゃない。
そうこう言っている間にケセド司酒長 ──天野有帆先輩と、くだんの"お人形さん"編入生が談話室に入ってきた。
四人の中で、俺一人制服じゃなくて、なんとなく浮いている感がある。
編入生は、天野さんのうしろに隠れるような、遠慮がちな物腰。
近くで見ると、もっと名工の手による作り物みたいに精巧だった。
綺麗、可愛い。
なんかそんな感じ。
「広瀬さま、譲(ゆずる)くん。時間割いてもらってありがとうございます。
彼、一年の編入生で花井汐くん」
花井汐。
天野さんの言った彼の名前を、心中くり返す。
お人形編入生の花井汐は、なぜか縁の赤くなった目で、高美と俺を見てから「よろしくお願いします」と頭を下げた。
ちょこんとお辞儀をする姿が、なんだか小動物を連想させる。
「汐くん。こちら尚書長の広瀬高美さま。こちらはケセドで君の同室になる基山(きやま)譲くん。
お二人とも、君と同じ一年生だよ」
今度は高美と俺の二人が軽く会釈した。
堅苦しいのは苦手だ。
三人とも同じ学年なんだし、軽く行けば良いじゃんと思ってから、視界に高美がよぎった。
(俺はそれで良くても、こいつはそうは行かないか)
面倒くさい。
高美は汐の手を取って、握手を交わし、丁寧に挨拶をしていた。
汐は複雑な表情で、それにどう応えて良いかわからないような顔をしていた。
確かに。
エスカレーター式に上がってくる奴らには普通でも、外部からの編入生には奇異に見えることがたくさんある。
「あの。天野さん、良かったら俺が汐くんを案内しますよ。どうせ、同室なんですし」
俺が申し出るのを、高美が「ユズ、積極的〜♪」と茶化す。
天野さんはうんうん頷いて、高美に向いた。
「譲くんは汐くんと同室で、同じ外部編入だったんです。彼から色々と教えてもらうのが良いと思いますが、どうでしょう?」
どうでしょう、と言われてここで断られては立つ瀬がないって感じなんだけど、高美相手じゃそんな心配は無用だ。
こいつは面白がっている。
「うん、いいんじゃない?」
花井汐は天野さんの話の中で、「外部編入」という言葉に反応して俺を見た。
(やっぱり、めちゃくちゃ可愛いだろ、こいつ!)
花井汐は「はい」と天野さんに返してから、俺に「よろしくお願いします」とまた頭を下げた。
天野さんは「じゃあ、お願いしますね。譲くん」と短く言って、談話室を出て行った。
一番面倒くさい高美が残ってしまったわけだが。
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