聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
「君が天野司酒長を頼りにして、慰めてもらっていると知ったら、森村明石はどうするだろう」
「……ないで……」
俺の手の内で小刻みに震える花井汐は、うつむいた白い顎から涙粒を落としていた。
「明石には言わないで下さい……お願いします……」
驚きはしなかったけど。
花井汐が森村明石を恐れて、離れたがっていることは確信した。
俺は、泣きはじめて体温が上がった両手を自分の手に取った。
暖かみを帯びた両手に、薄赤い聖痕が咲いている。
花井汐が、犠牲の仔羊である証のように痛々しく。
自然に笑みが浮かんだ。
小さく哀れな、そして美しい仔羊が、自分の手の内にあることが、喩えようもない快感だった。
「言わないよ、君のために」
涙を溜めたままの目が大きく見開いた。
「……本当? どうして? 貴方は聖王会の人なのに……」
「規則を破ってもいないのに、窮地に立たされる理由はないだろう?
何でも相談してくれたまえ。本来、聖王会は生徒のためにある」
顔に貼りついた笑みを前に、花井汐はまだ緊張した表情をしていたが「ありがとうございます」と、蚊の鳴くような声で返してきた。
暖かく浮かんだ証に唇をつける。
飴でも鞭でも。
どちらでも、君のために。
……どちらでも、人形に繋げた操り糸だ。
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