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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 聖王本人も同じなのだと思っていたが、それは思いこみだったようだ。

 淡々と業務をこなす日々の水面下に、彼は“誰か”を求めていた。
 誰か――花井汐にその事実を知られることもなく、名さえ知られることなく。

 聖王が王軍長をぶっ飛ばした、あの場面が何度か過ぎる。
 密かに燃やした聖王の執着は、俺が想像するそれをはるかに超えていたのだ。









 夕礼拝の後。
 会議予定の有無を聞いて、一般生徒より後に教会を出た。
 予定されていた会議がなくなってしまった。
 遊びも休息も含めた、それぞれの予定に奔走する生徒たちを尻目に、俺は空白になった時間を何に費やすか考えていた。

 時間が取れなくて積みかさねる一方になっていた本でも読みすすめるか、と過ぎったとき、木々の影から人の声が聞こえた。
 咄嗟に身を隠す。

 話し声は辺りをはばかる大きさではなかったが、二人のうち一人が知った顔だったからだ。

 花井汐。
 先日の接見対象だ。
 あの一件からコクマの独房入りを余儀なくされていた俺は、以来一度も花井汐には会っていない。
 くだんの会議室からは、天野司酒長に負われて出て行ったぐらい、心身ともダメージを受けていたように見えたが。

(なんだ。割と元気そうじゃないか)

 花井汐は、見かけよりずっと強いようだ。

 話し相手は誰だろうか。
 こちらは背中が見えるだけで、顔は見えない。
 花井汐よりずっと背がありそうだ。

「天野さんから離れたほうが良いなんて……なんで、そんなこと言うの?」

 花井汐の動揺した声。

 天野、というのは大方、ケセド司酒長 天野有帆のことだろう。
 接見の件以来、親密度が増しでもしたんだろうか。

 窮地を救われたから?
 単純な展開だ。

「……コクマに行ったあの夜から、汐、おかしいと思う。ことあるごとに、天野さんの部屋に行ったりして。いったい、二人で何してるの?」

 恋人相手に、不実をなじるような言い方に聞こえるのは気のせいだろうか。
 口の利き方からして、一年生同士だろう。

「何って……何も。僕が一方的に話を聞いてもらってるだけだよ。天野さんは優しいし、良い人だし」

 なるほど。
 花井汐は、相手に向けられている好意に気づいていない状態だってことか。
 酷い話だ、と笑いが洩れる。

「司酒長は、寮生の話聞くのも仕事のうちだろ。それを、汐は好意とごちゃまぜにしてるだけだ。
 それに、司酒長だって末端とはいえ聖王会の役員だよ。汐に一番近い立ち位置の天野さんは、会から斥候役を受けているかもしれない」

 ああ。
 それは良い手だったかもね。
 天野司酒長は、言えば動いたかもしれないしね。

「譲、ひどい……天野さんは、僕を騙したりしないよ。図書室でもヘンな人から助けてくれたし、会議室でも助けてくれた。聖王会の調査役なんかじゃ……」

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あきゅろす。
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