聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
5
暖色の灯りにもなお赤く染めた頬に、涙粒がこぼれて落ちていく。
左膝を開いている、包帯のない左手に、赤い花が咲いている。
花が誘うその先は、幼い徴が情欲の雫に濡れていた。
「汐」
僕は、浮かびあがる白い腰に腕を伸ばした。
ひんやりとした印象の肌は熱く、しっとりとしている。
ひときわ鮮やかな右手の花に、唇を寄せた。
蜂蜜のような、柔らかな甘い匂いがする。
「ああ……明石……」
口から過去の欠片をこぼす汐に、「僕は明石じゃない」と、どうして言えただろう。
灯りに小さな光を反射させる雫に、夢中で舌を這わせた。
熱を持ち張りつめるそこは、同じ年頃の同性とは思えない可憐な色を持っている。
舐めるに飽きたらず、全体を口に含むと、汐は膝を震わせた。
両手が僕の髪をかき分けて、夜の空気が冷たく入りこんでくる。
雫を強く吸い出しながら、髪に触れていた汐の手を取って頬に寄せた。
滑らかな肌に赤い花。
花びらに目を奪われながら、愛らしい徴を貪った。
可愛い汐。
弟のように守ってやりたいと思っていた、その同じ人間の白濁を舌ですすりとる矛盾。
自分はいつからこんな邪な情欲にかられていたのだろう。
「ん……ぁあっ……だめ、出ちゃ……」
するすると、ほどけた包帯が肩に落ちてくる。
頬にくっつけていた手が、肩を握って、指先にきゅっと力が入った。
「ああっ……あか…… 明石っ…… ……」
口の中に広がった熱に、舌をからめるようにして、最後の雫までもすすり取りたいと思った。
達した体を重そうにもたれさせて、汐はそのままくったりと動かなかった。
肩に載せられた、汐の濡れた頬が熱い。
口に含んだままの汐を最後に舌先で撫でて、力の抜けた上体を起こす。
ぼんやりと移ろわせた視線と、目元に残った涙液。
緩んでいるだろう視界に、僕はまだ“明石”に見えるのだろうか。
「……。……天野さん……。僕……」
うん、と返して、体に上掛けをかけてやる。
何が起こっているのかわからないという顔だ。
僕はまだ熱い汐をベッドに離して、さっき取り出した睡眠薬と水を取ってきた。
ぼうっと空を眺めている汐は、薬を受けとると「ありがとうございます……」と、素直にそれを飲み下した。
「眠りなさい。ゆっくり休んで」
微かに、はいと返して、重そうに横になると、すぐに規則正しい寝息を立てた。
取れてしまった包帯を巻いてやる。
また取りだすのを忘れていた包帯止めを救急箱から取ってきて、止めてやる。
薬が効いてきたのか、触れても目を覚ますことがない。
汐が脱ぎ捨てていた寝間着の下衣を着せて、元どおり上掛けをかけておいた。
邪心のない寝顔は、一瞬前の花井汐は想像できない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!