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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
「僕が、いい子にしてなかった………。明石はお金持ちじゃなかったの……。明石が、『みんな』を連れて……だからね……」

 ぴり、と小さな音を立てて、湿布薬のフィルムをはがしながら、自分の心のうちに好奇が湧くのを感じていた。

 花井汐は混乱状態にある。
 コクマの会議室で、恐ろしい目に遭ったのだろう。
 ショックを受けて、心の断片を無意識に吐露している。

 言っていることは千分の一も理解できない。

 森村明石はグループ企業の御曹司だと聞いている。
 『明石はお金持ちじゃなかった』という、汐のつぶやきと合致しない。

 そもそも汐の言う『明石』は聖王 森村明石ではない可能性もある。
 つぶやき同士ですら、繋がっているかそうでないのか、わからない。

「手を出して。少しひんやりして痛むかもしれませんが、我慢して下さい」

 熱を持った手に冷湿布を乗せると、汐はぴくりと手を引こうとした。
 正常な反応に、ちょっと安心した。
 その上から、包帯を巻いていく。

「……痛いの……『みんな』、逃げようとしたら叩いたりするから。だからね、じっとしてて、我慢して、終わるのを待つの……終わるんだよ、いつか。じっとしてればね……」

「……『みんな』って、誰です?」

 熱によるうわ言に、質問なんかしてはいけない。
 そう思いながらも、好奇心に負けた自分が汐の心の断片に、質問を投げかけてしまった。

 汐は、ふふ、と笑った。

「お母さまは、死んじゃった」

 奇妙な違和感に、ぞくりとした悪寒が走る。
 笑うようなことを聞いただろうか。

 包帯に鋏を入れてから、包帯止めを出していないことに気づいた。
 ベッドサイドの明かりだけを頼りに、救急箱の中を探る。
 指先に幾つも薬の紙箱が当たって、中に睡眠薬があった。
 汐に飲ませたほうが良いかもしれない、と外に出しておく。

 汐がふいに、腕を伸ばして僕の肩に抱きついてきた。

「だから……はやく助けてちょうだい。『みんな』は嫌なの、明石がいいの……綺麗にした僕は、嫌……?」

「汐く……?」

 聞いてはいけなかった。
 彼の無意識の欠片を、流れるままにしてはいけなかった。

 汐の唇が、僕の首筋や唇に押し当てられる。
 慌ててふりほどくも、ベッドに上に落ちた汐は泣きながら、寝間着の下衣から、そのすんなりとした細い脚を抜き出していた。

「汐……」

 少女のような白く細い腿から下着まで抜き取って、ゆっくりと膝を開いた。
 まだ白く、柔らかさなどなさそうな腿に、包帯のほどけた手をあてがい、僕の視線を誘うように肌を撫でた。

「痛かったけど……ちゃんと我慢したよ? だから、明石……助けてくれるでしょう……?」

 ベッドサイドの灯りが、白くなめらかな、まるで冷たい陶器のような肢体が浮かびあがる。

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あきゅろす。
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