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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
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 可哀想なことをした。

 消灯前、司酒長は寮生の点呼を行う。
 ネザクとコクマの両司酒長がどのような形を取っているかは知らないが、ケセドでは消灯前の自由時間には寮にいることがルールだ。

 ただ、その時間に部屋にいるだけで良い。
 寮の中を素知らぬ顔で歩き回り、在寮を確認していく。

 そんな点呼をしている最中、一年生の花井汐だけがどうしても見つけだせなかった。

 同室の基山譲は、他の友人たちと歓談しているのを見かけた。
 ただ同室というだけで、始終一緒にいるほど親しくなるのは稀だ。

 僕も司酒長になる前は二人部屋に住んでいたが、部屋以外ではお互い自由に過ごしているのが、普通だった。

(見つけられなければ、誰かに聞くしかないんだけど……)

 聞くとすれば、やはり譲くんか、と思っていると、ぽんと肩を叩かれた。

 振りかえると、去年まで同室だった相馬一志(そうま かずし)だった。
 すでに寝る気なのか、がっしりした体躯をジャージで包み、短く刈り込んだ髪は濡れた後がある。

「誰探してんの。二年の松原なら、外で筋トレするとか言って出てったの見たぜ」

「ああ、哲くんならチェックしがてら、寮に入っておくよう声かけしたんですよ。ありがとう、一志。
 問題は、一年の花井汐くんで……。見ませんでしたか?」

「ああ、編入してきた子? 女の子みたいなツラの?」

"女の子みたいなツラ"は余計だ。

「そういうこと、例え自分が上級生であっても、簡単に言うもんじゃありませんよ。思春期の生徒は、気にしていることが多いんですから」

「わかった。ごめん、浅薄だった」

 そんなことを思うのは、同じようなことでからかわれた経験があるからだろうか。
 最初に花井汐を見たときに、守ってやらなければと思ったのもそのせいかもしれない。

 一志はそのころの僕のこともよく知っていてくれていて、何かと気を使ってくれる。
 本当なら一志のような生徒にこそ、役職を与えるべきなんじゃないだろうか。

「あのう」

 談話室の前を通りかかった寮生が立ち止まって、遠慮がちに僕らを見上げてきた。
 一年生だ。

「話が聞こえちゃったんです、すみません。
 それで、汐なら制服を着てケセドを出ていくのを見ました。テキストの入ったファイルを持ってて。方向的には、ネザクかコクマに行ったんだと思います」

 その情報を聞いた時、僕はまだ慌ててはいなかった。

 消灯前の自由時間。
 花井汐はテキストを持って、ネザクかコクマに出来た友達に宿題を教わりにでも行ったのだろう、程度にしか考えていなかったからだ。

 自分で探しに出向いたのは、先述のような理由からだろう。
 勝手なもので、容姿のことだけで、弟にも似た感情を抱いていたのだ。

 道をはさんで隣に建つネザク寮を訪ねた時に、一番に出てきたのは副王軍長の堀切茂孝だった。
 彼はまだ二年生だというのに副王軍長と司酒長の二役を兼任している。

「花井、汐…ですか」

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