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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
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「まぁ……問題は陛下が『少し』勝手だった、と思うかどうかだよね? でも多分、独房からはすぐ出られるんじゃない? 仕事残ってるし、家令と王軍長の二席も一気にいなくなられると、皆困るよ。
 進言ありがと。僕は僕で頑張ってみるから」

 納得しきれていない大沢司酒長を置いて部屋に入ろうとした時、僕が上がってきたのと反対側の階段から、堀切副王軍長に連れられた、鷹宮家令と東原王軍長が現れた。
 独房に入れられていたんじゃなかったのか?

 鷹宮さまは目が合うと、「尚書長」と手を振って笑った。
 独房に入れられている人とは思えない明るさだ。
 おそらくすぐ出されるという予感を、鷹宮さまも感じているのだろう。

 一方で、東原王軍長はぶすっと眉間にしわを刻んでいる。
 向かって右側の頬からあごにかけてが赤くなっていて、少し腫れている。
 色の入った片頬に氷嚢を押しあてていた。
 さっきの救急箱から出してきたものだろうか。

「お二人とも、お疲れ様です。独房だったんじゃなかったんですか?」

「ようやく話を聞いてくれる気になったみたいだよ、陛下が」

 いつもの調子で笑う鷹宮さまに、堀切副王軍長が背中を小突いた。
 鷹宮家令の、眼鏡の奥の笑っていない目が副王軍長を振りかえる。

「無駄口を叩く暇があったら早く部屋に入って下さい」

 鷹宮さまの目にも臆さず、平然と返す堀切さんのことを王軍長が傍から睨みつけている、といった図だ。

 本当に面倒な人たちだと思う。
 聖王会のメンバーの一人として指名されていなければ、絶対に関わりあうことなんてなかった人種だ。
 
 家令、王軍長、副王軍長に続いて部屋に入ると、聖王と修司がコーヒーに口をつけているのが目に入った。
 修司は口にガムを入れたままだ。
 カップから唇を離すと、くちゃくちゃと噛む音が洩れる。

 後から入った者が席につくと、森村聖王の手にあったカップがソーサーの上に音を立てた。
 全員を見回した後、鷹宮家令で視線を止め、「説明しろ」と低く吐く。

 鷹宮さまは、ちらと王軍長に視線をやった。
『黙っていろ』と言っているような、そんな目だ。

「説明も何も。見てのとおりですよ。陛下が気にしていた生徒を、事前に接見した。それだけです」

 臆面もなく言い放つ家令に、聖王はカップを指先で弄びながら、じろりと視線をやった。

「気にしていた? そんなことがなぜおまえにわかる」

 鷹宮さまは「わかりますよ」と笑う。

「聖痕を持つ花井汐を、聖王会の空席にすわらせるおつもりなんでしょう?」

 勝手にため息が洩れた。
 前回の会議の時も、鷹宮さまはそんなことを言っていた。

 聖王会の空席。

 それはもう、ほとんどないに等しい。
 現在あったとしても、役割がない。
 議題に出すだけ無駄だ。

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