聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
1
消灯間際、自習室で片づけをしていたら基山譲が飛びこんできた。
なんだか焦っているみたいな顔をしていたけど、誰を探しているかなんてこっちは知るわけもないし。
最近のユズが気にかけている人間と言えば、同室寮生の花井汐しかいない。
汐ちゃんは可愛いし、ウサぬい抱っこで寝ているという噂(ホントか?)以外は常識人だし。
嫌いってわけじゃないし、むしろ多分好き寄りだと思う。
僕が抱く好きより、ユズが汐ちゃんを好きのほうがどうも深刻みたいで、たまに話を聞いているのがぶっちゃけうざったい。
実のところ、突如実施されることになったらしい数学の確認テストを明日に控えて、聖王会在籍者としては譲どころじゃなかったんである。
「高美っ!! いるんだろ、返事しろ!! 広瀬高美っ!!」
戸口で尚書長のフルネームを叫ぶ生徒の存在に、自習室全体が、しんと凍りついた。
自習中の生徒たちは、室内に"広瀬高美"を目だけで探しはじめる。
(〜〜っ!! うざったい!!)
テキスト、ペンケース一式を抱えてブースを出る。
僕を見つけた生徒たちが「あ、やっぱ来てらしたんだ」とテキストに目をやる。
「……とまぁこんな感じで、僕が数学に怯えている事実が、ケセドに広がるだろうが!? 責任とって明日のヤマはれよ、ユズ!!」
談話室で運んでもらった紅茶を口にしながら、ユズを睨みつけた。
ユズはどうも、僕を秀才か何かだと誤解していて、努力家だという主張は耳から入って耳へ出て行くのだ。
「そんなことより、これ!! 見てよ、高美」
まだ通常音量で喋り続けるユズの頭に、軽く一撃をくらわせておく。
呼び捨てにされている尚書長も問題だけど、聖王会を軽んじていると解されるユズのほうはもう一つややこしいことになる。
「ちょっとは僕に、気ぃ使ってよね!
で、何。汐ちゃんのお風呂、性懲りもなくまた迎えに行ったりしたの?」
ユズをからかいながら、差し出された紙切れを受け取った。
広げてみて、はっと目が見開く。
ケセド寮からコクマ寮会議室への地図だ。
一般生徒は会議室の場所がよくわかっていない。
ゆえに地図を添付する。
呼びだした生徒には、といったところだが。
「俺が談話室から帰ったら、汐いなくて。汐の机の足元にこれが落ちてて、まさか呼び出しがあったんじゃないかって。高美、何か知らないか?」
「……――っ……」
一瞬、二の句が告げなかった。
(これは、"接見"だ)
いったい、誰が!?
僕はその接見に対する尚書を作らせた覚えはない。
先日の会議の時に、家令 鷹宮さまが"聖痕"の話をしていた。
何かを探り出すような顔はいつも通りで。
鷹宮さまは聖王陛下を気にしすぎなんだと思うけど。
家令は家令で大変な仕事だし、十分名誉職だ。
[次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!