聖王の御手のうち(本編+SS/完結) 7 台詞と同時に、僕の頬が鳴った。 その衝撃にも、僕の涙は止まらない。 そんなことよりも、僕の頭の中で、パズルのピースがはまった時みたいな、ぱちりという音がしたような気がした。 礼拝の、聖書の朗読。 あれは毎日朝夕に、聖王会代表のモリムラタカシという生徒が読み上げていて。 落ち着いた声色と滑らかに読み上げるスピードが心地よくて、楽しみの一つになっていた。 彼の名前はモリムラタカシ。 モリムラ……森村…… ……明石。 ("アカシ"……明石……っ!……) 煙草の苦い匂いと、眼鏡をかけた生徒。 ──へー、真っ赤。意外だね。シャイなまま、ここまで来たんだ。 ──『もっと』ってねだってたし。いつもみたいに、ちゃんと。 ──良い子だから、もう少しそうしてて? 「……あ……明石……明石が、そんな、嘘……」 かたかたと手が震える。 手だけじゃない、膝も。 立っていられない。 だってそんな、嘘だ。 森村明石がここに、この学園に、僕のそばにいるなんて── ドアが開いた。 誰かがつかつかと入ってきて、東原さんを殴りつけた。 東原さんが背中からテーブルにぶつかって床に落ちたのが、スローに見える。 拳を奮う彼は、あの人は。 「──誰が汐を呼びだした」 静かな、でも怒りを含んだ声。 この声色は知っている。 「堀切。鷹宮と梅を、コクマ独房へ。話はその後聞く」 毎朝夕、聞いた……子供の頃、聞いた…… (明石、嘘……ここにいる……) 続いて入ったきたのは天野司酒長だった。 転がるように僕に近づくと、ジュースまみれの僕をためらうことなく抱きとめた。 視界がタオルに隠れてしまう。 僕を抱きしめた体温に、飛び出しそうだった心臓がしだいに落ち着いていくのがわかる。 頭上から「聖王」と、強い語調が向かって行った。 天野さんの声だ。 「うちの、ケセド寮生を、僕に断りなく連れていくのは、聖王会といえども今後絶対に許しません。二度とないよう、肝にめいじておくように」 [*前へ] [戻る] |