聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
6
ため息まじりの鷹宮さんに、東原さんが「何だよ、協力してやってんだろ!」と噛み付いているのが聞こえる。
それを無視して、床に転がった僕のそばに、鷹宮さんが片膝をついて覗き込んできた。
「大丈夫? 吃驚するよね。ごめんね、王軍長は乱暴者で」
起きられる? とジュースに濡れた僕の手を支えて、鷹宮さんは視線を止めた。
僕の手をじっと見つめて、笑みを消した。
「不思議。さっきはなかった聖痕が、今はある」
床に尻をつけてすわっている僕に、東原さんまでが「ええ?」と覗きこんでくる。
もう片方の空いた手にタオルをくれながら、大沢司酒長までもが手に視線をくれた。
確かに、痣は浮き上がっていた。
さっき、東原さんに叩きつけられたほうの手だけに。
「嘘。まさか本物じゃないですよね、梅路さま……」
震えるような声色で大沢司酒長が言うのを、東原さんは睨みつけた。
「そんなわけないだろ! 馬鹿なこと言うなら、出ていけよ、良樹」
鷹宮さんの言った、"戦闘モードの猫"みたいに、東原さんは大沢司酒長を怒鳴りつけた。
その声に、司酒長は慌てて部屋を出て行く。
猫にたとえたとしても、やっぱり東原さんが怖いことには変わりがないけど。
僕の、痛むほうの手を取ったまま、鷹宮さんは東原さんを振り返った。
「王軍長、ちょっと黙ってて。手に、熱がある。花井くん、さっきは緊張してて、両手ともこっちの手みたいに冷たかったんだね?」
「はい……。手の、それは……お風呂に入ったり、体が温まると浮き上がってきて……昔、子供の頃に、怪我をしてから……ずっと、です……」
「なるほどね。血液循環の問題か。聖痕の謎は意外とシンプルだね」
僕の体を引っ張り起こしながら、合点がいったと鷹宮さんは笑った。
タオルで頭についたジュースを拭い、目元も拭っておいた。
混乱すると涙が出る癖を治したいけど、いつも同じことだ。
僕がのろのろとタオルを使っている様子を見ながら、鷹宮さんはまた質問を続ける気になったみたいだった。
「それで。聖王陛下とはいつからのつきあい?」
「聖王……? 会長と、つきあい……って。僕は、聖王……陛下……と、つきあいなんてないです。彼も僕のことなんて、知らないと思います……」
鷹宮さんの後ろに立っている東原さんが怖くて、彼を怒らせないように精一杯言葉を選んで答えたつもりだった。
それでも、聖王という単語が出てくると、東原さんは意識的に僕のほうを見る。
僕の答えに、鷹宮さんはどうしてかしばし絶句してから、「なるほどね」と返した。
「彼が誰か知らないでいるんだね」
「そんなこと、あるわけないだろ!」
鷹宮さんの背後から進み出て、東原さんは眉を吊り上げた。
「礼拝に出てないの? 朗読する明石を知らないの? よく目の前にしていて気づかないもんだよね、しらばっくれて……!」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!