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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
 大沢司酒長が開いたドアの隙間から見えたのは、金獅子旗だった。
 多分上座である壁一面を覆う、大きなものだ。
 それがべったりと貼りつけられた前に、ソファと木製のテーブルが長く伸びている。

 上座席に眼鏡の生徒がすわっていた。
 その後ろにも一人、同じ制服姿の生徒が背筋を伸ばして立っている。

「花井汐です」

 緊張の隠せない声に、自分で情けないと思いながら、戸口でぺこりとお辞儀をした。
 大沢司酒長が近づいていった立ち姿の生徒が振り返る。
 その顔を見て、あっと声が出そうになった。

 数日前の朝、校庭の噴水近くで王軍による"狩り"があった。
 聖王会の命令に背いた生徒を、王軍が出向いて捕縛するのだ、と譲は小声で教えてくれた。

 その後に、僕の手を見に近づいた人がいた。
 彼が誰だか知らなかったけど、彼は僕のことを知っている様子で。
 手の痣を見つめた。

("王軍長")

 聖王会から降りてきた"ルール"を一般生徒が守っているかどうか確認し、違反者を捕らえて罰するのだという"王軍"のトップ。
 言い換えるなら風紀委員長とか? と譲は説明していたけど、根本的に存在意義が違うように思える。

 王軍長に手首を捕らえられた時に走った緊張感が、さっと体を駆け抜けた。

 目が、先刻案内してくれた司酒長を追う。

 大沢司酒長。
 今は王軍長に向かって、何か話をしている。
 王軍長のほうは興味がなさそうに、頷いている感じだ。
 話を続ける司酒長も、あの朝王軍にいた。

(どういうこと? 司酒長って寮長じゃないの? 王軍で一緒に活動したりするの?)

 まだ聖王会のしくみがよく理解できない。

 もう一人、上座席にすわったまま、じっと僕を見つめている人には見覚えがない。
 多分、この人が僕を尚書で呼び出した"家令"なんだろう。

 すわっていた生徒が、音もなく立ち上がった。

「よく来てくれたね、花井くん。俺が聖王会家令 鷹宮雅臣だ。こちらは王軍長 東原梅路。コクマ司酒長はもう知っているかな」

 鷹宮さんの流れるような紹介にあわせて、残る二人が僕のほうに視線をくれて、目が合うたびに僕は会釈を繰り返した。

 部屋に入ってからずっと笑みを浮かべている鷹宮さんと、終始仏頂面の東原さんは対照的だ。

 僕を呼び出したのは鷹宮さんだったけど、東原さんはどうしてここにいるんだろう。

(それでも『聖王会全員と僕』って構図にならないだけ良かったのかもしれない)

 所在なく視線を移ろわせていると、鷹宮さんが「すわりたまえ」とソファを指した。
 言われるまま、一番戸口に近いソファに腰を下ろした。
 あまりに沈むので、ひっくり返りそうになるかと、慌ててテーブルに手を伸ばした。

 鷹宮さんはファイルから書類を取り出して、それと僕を交互に見ている。
 何の書類だろう。

「色々、君に聞いてみたいと思ってね。出生地は桜間となっているけど、現在ご両親は?」

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あきゅろす。
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