聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
1
尚書というものを見たのは二回目だ。
一回目は校舎の前の、ガラスケースのついた掲示板の中。
たくさんの生徒に囲まれて、場所を取るなんてことはできなかったけど。
紙切れ一枚に妙な威圧感を感じた。
でも、あの時抱いた気持ちは、所詮は他人事だった。
二回目は、今は違う。
手にした上質の紙を上下に開いて、僕は息を飲んだ。
そこには今日の夜、コクマ寮にある会議室に来るように、と書いてあった。
下に日時と、ご丁寧にも同封に地図がある。
最後に、『聖王会家令 鷹宮雅臣』とサインがある。
("家令"……確か、副会長って意味だったっけ)
少しずつ譲が教えてくれておかげで、不可解だった聖風特有の単語も、置き換えて理解できるようになってきた。
ただ、慣れるのは少し先だろうと思う。
それにしても、聖王会の家令という人から、どうして僕なんかに呼び出しが来るんだろう。
鷹宮雅臣という名前にも、見覚えがない。
コクマはネザク寮棟の向こう側、一番山側に位置する棟だ。
三つの寮の端と端に渡るわけだけど、ケセドの窓から顔を出せば、コクマまでは見える。
これは多分、形式的なものだろうと、地図をたたんで制服のポケットに入れた。
尚書はどこに片付けようか。
譲の目には触れさせたくない。
譲は、尚書長である高美くんと親しい。
呼び出しの一件を知れば、心配してくれるだろう。
高美くんは余計な板ばさみになってしまう恐れもある。
(大したことじゃない。編入してしばらく経つから、様子を見るってだけのことかもしれないし)
譲に相談したら笑いとばされるぐらいの話かもしれない。
それなら、終わった後に報告すれば良いだけだ。
とりあえず尚書の場所だ、とクローゼットを開いた。
同室とはいえ、人のクローゼットを開くことはない。
元通りくるくると巻いて、足元に置いておいた。
日が暮れて、食事の後の夕礼拝も終わって。
いつもみたいにモリムラタカシ聖王の朗読に聞きほれた後、だんだんと緊張しているのに気づいた。
教会からケセド寮に帰る道、右手の奥にコクマ寮が見える。
会議室はあの二階だと書いてあった。
もうすぐ約束の時間だ。
(家令っていう人と二人で会うのかな。聖王会の人、全員と僕っていう構図は嫌かも。あ、でも全員だったら、その場に高美くんもいてくれるから、逆に心強いかもしれないし)
部屋に戻ると、譲の姿はなかった。
そういえば食事の最中に、話が盛り上がったグループの中にいたような気がする。
きっと談話室にでも流れて、続きに花を咲かせているのだろう。
机の明かりだけを点けて、用意していたクリアファイルを取り出した。
[次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!