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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
8
 見ていたのか。
 見ていて、素知らぬ顔をして展開を眺めているところが雅臣らしい。

「別に。気になるわけじゃない。たまたまいたから、雅臣が言っていたことを思い出しただけだ」

「聖痕、のことを?」

 そうだ、と短く返す。
 真意を隠す微笑を浮かべながら、雅臣は眼鏡を鼻の上へと押し上げた。

「そういえば、"眼鏡の聖王"が花井汐にちょっかいをかけているらしいね」

「……何?」

 無意識に眉間に皺ができる。
 眼鏡の、まではともかく、その後ろに聖王がつくその単語は何なんだ。

 雅臣は、おや、とわざとらしく驚いたような顔を作った。

「王軍長が知らないとは驚いたね。王陛下のことは、何でも知っていると思っていたけど、かいかぶりだったようだ」

「良いから言え! 眼鏡の、って明石の何なんだよ」

 雅臣の制服の胸に軽く拳を入れると、別に動じるでもなく「まだ皆、王軍長を見てるよ? とにかく君は派手だから」とだけ言った。

 確かに視線は感じるが、一般人の目などどうでもいい。
 いや、明石以外はどうでもいい。

「明石の何を知っている」

「大した話じゃない。眼鏡をかけた王陛下が、校内で休憩してるって話だよ。
 あの人もパッと見、派手なお方だ。眼鏡ぐらいで、どこまで変装と言えるかわからないけど。まぁ普段、聖王として気がかりが多い人だから、それでリラックスになっているんなら良いじゃないか、と見過ごしてるわけだけど」

 仕事をこなせばプライベートはどうでもいい、とまったくつまらないことを言う雅臣の前で、俺はぐるぐると思考をめぐらせていた。

 知らなかった。
 明石がそんなふうに休息をとっていたなんて。

 癒しは俺に求めてくれれば良いのに、と勝手なことを過ぎらせつつも、目の前にいる雅臣が俺の知らない明石を知っていたことが、なんとなくイライラさせた。

「王軍長。そんな顔しないで。君も綺麗な顔なんだから」

 何の役に立つのか意味不明なおべんちゃらの後、それで、と続ける。

「いちいち反応しないでもらいたいんだけど、眼鏡の聖王が花井汐に時折近づいては話かけているみたいなんだ。真意はわからないけど、興味は相当あるらしい。それで、ここからが本題なんだけど」

「早く言え」

「王軍長と俺、二人で花井汐に会ってみないか?」

 雅臣の提案を聞いた瞬間、鼻から息が抜けて行った。

"会う"というのはつまり、聖王会会議室に呼び出して、次々と質問を投げかけるということだ。
 対象者に拒否権はない。

 雅臣が誰かに会いたいと言い出すのは初めてだ。
 別に花井汐に執心があるわけじゃない。
 明石が興味を持つ者に対して、好奇心を掻きたてられているだけなのだ。

(本当に悪趣味だ)

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あきゅろす。
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