聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
森村明石が聖王でいる限り、俺もそばに在り続ける。
「ああっ……」
体内を穿つ良樹が、大きく震えた。
飛沫が叩きつけられるのがわかる。
ここまで溜め込んできた水位を越えて、腿に白濁を伝わせた。
膝が震えて、支えのために枕を引き寄せて胸に抱いた。
「ん……ふ……」
「梅路さま……」
力が抜けた体を俺の背中にくっつけてくるのを、うざったくはねのけた。
妄想が消えたら、目の前にいるのが大沢良樹だと判断できてしまう。
明石以外とやってしまったのだと、思う一瞬を作りたくない。
天井を見ていた良樹が眠そうな目をして、「良くなかったですか?」と不安げに問うてきた。
(明石でなけりゃ、誰でも一緒だ)
ガウンを羽織って、立ち上がりながら「悪くなかった」と返しておく。
良樹はがばっと身を起こして、俺の背中から腕を回してきた。
まだ早い鼓動が、背中を通して伝わってくる。
「俺じゃあ……陛下の代わりにならないことは、わかってますけど……。俺はっ……梅路さまのことが……」
「良樹」
ぴしりと語尾を打つと、良樹はびくっと肩を揺らして腕を解いた。
顔だけ振り返って目を合わせる。
主人を前にした、泣きそうに赤い目元に、口の端がほころんだ。
おまえのあるべき表情はそれでいい。
「コクマにおいて、聖王会尚書に従わない者がある。司酒長であるおまえには、その名がわかっているだろうが」
「はい」
「明日の朝、始業前に狩る。コクマの独房を準備しておけ。
指揮を仕切りたければやらせてやる」
良樹は驚いて、目を見開いた。
無理もない。
司酒長の身には余る任務だ。
「で、でも、俺が指揮なんて、堀切(ほりきり)副王軍長がなんて言うか……」
「茂孝(しげたか)? 勝手に吠えさせておけば良いさ、あんなの」
「梅路さまには部下に当たっても、俺には」
良樹の言うことはもっともな話だ。
堀切茂孝。
ネザク寮の秀才で、司酒長と副王軍長を兼任している。
明石のお気に入りだ。
どれだけ出来が良い副官でも、明石の目に止まってしまう出る杭は、俺に必要ない。
「良樹。茂孝はどうでも良い。やるの、やらないの」
「――っ……や、やります」
よし、と頷く。
"王軍長の下僕"を自称するなら、毒薬なりとも皿まで食らって見せてみろ。
自らの唾液を下して今から緊張を見せる良樹のこめかみに軽く口づける。
良樹は俺の頬を両手に包みこんで、口唇を貪った。
言いつけを飲んだ犬には、褒美が必要だ。
「……茂孝が何か言ってきたら、俺がおまえを守ってやる。能力を示せ」
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