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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 花井汐の話題にイライラしているのに、きんとした声が神経き障る。
 まったく、どいつもこいつも。

 テーブルの上を拭く尚書院の生徒たちにへらへら笑って、高美は「で、何でしたっけ?」と雅臣に返した。

「あ、そーだ。申し訳ありませんが、下書き原稿をまたいただけますか?」

 雅臣は苦々しい顔をしながら、もう一枚取っておいたらしい下書き原稿を高美に差し出した。

 タイミング良く、尚書院生が紅茶を差し出す。
 高美が笑みを浮かべて紅茶を飲むさまを見て、明石は「お行儀良くしろよ?」と笑った。

 明石の視線が俺から高美に移ったことが、気にくわない。
 明石は高美に向けていた目を、今度は雅臣に向けた。

「それで? 雅臣、聖痕が何」

 明石の振りを受けて、雅臣はもっともらしく咳払いをして続けた。

「春先に来た編入生、花井汐の身体には聖痕があるらしい、という話です」

 何度でも引っかかる"聖痕"という言葉。

 天や天使からの言葉を耳にした信仰者が、奇蹟を身体に具現する。
 それが聖痕。
 救世主が、その身に受けた傷痕。

 明石も、俺と似たようなことを頭の中に思い浮かべているに違いない。

「へぇ、聖痕ねぇ。恐れおおくも、聖フランチェスコさながら、身体に傷痕を持ってるって? 聖痕だと、自ら口にしてるわけ?」

「噂ですよ、陛下」

 にこっ、と作る笑みがわざとらしい。
 そもそもわざわざ"陛下"とか呼ぶのがわざとらしい。

 明石が興味を示さないみたいで、良かった。
 ただ、奇蹟の場所に傷痕があるってだけで、明石の関心を持っていけるなら苦労はない。
 ほっと息を吐いていると、明石が信じられないセリフを口にした。

「会ってみたいものだね、奇蹟の具現者に」

「えっ」

 なぜか反応して出たセリフが、俺と高美と同時だった。
 高美と目が合う。
 さっと視線を外していくのは、高美が先だった。
 さっきから黙りこくってた癖に、なんでこんな時のリアクションだけ大きいんだ、こいつ。

 明石は妙に機嫌の良さそうな雅臣に向かって、「うん」と短く返している。

「だって、面白そうじゃないか。本人がどう思っているのか、ぜひ聞いてみたいね」

 そこまで言ってから、明石は制服のポケットに手を突っこんで、会議室を出て行った。

(携帯がブルったんだな)

 明石が実際に携帯を触って喋っている現場は、あまり見ない。
 だけど同じように、場を抜けて出て行くさまはよく見る。
 明石が誰と繋がっているのかまでは、知るよしもない。


「諸君。聖王会の空席が埋まるかもしれない。そう思わないか?
 聖痕の持ち主が救世主の生まれ変わりだとすれば、彼は可哀想な仔羊だ」

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