聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
1
汐の様子が変だ。
息を切らして帰ってきた日があった。
部屋に帰ってくるなり、ベッドに潜りこんで。
それでも夕礼拝には出ていたし、飯時にもちゃんといた。
元々食は細いほうだったから、特に食べていないってほどじゃなかった。
「それ、まさか基準値はユズじゃないだろうね?」
空笑いを浮かべながら高美が変なところに質問を入れてくる。
別に食べる基準値を誰に設定しても、そんなに差はないと思う。
「? そうだけど」
「あのねぇ……。そりゃ、僕たちは育ち盛りだけどさ。誰もが丼で飯おかわりしてるとか、思わないで欲しいんだけど」
「だから高美は、成長未満なんじゃない?」
高美は背が低めなのを気にしている。
無論、知ってのツッコミだ。
「……殴るよ? ハイ、話、続けて」
談話室、消灯前。
最近の汐について、話す相手は広瀬高美だ。
食事の後の汐も普通に見えていたけど、入浴時間に姿を見ないことに気づいたのは、二・三日経ってからだった。
どうやら、皆と時間をずらして入浴しているようだ。
「そんなことする必要あるか? 男同士なのにさ!」
「生理なんじゃない?」
けろっとした顔で言う高美に、全身の力が抜ける。
汐にあるなら、おまえにだって絶対くるだろう!
(と、言いかけたがやめておいた。
本気で殴られそうだ)
こいつ、聞く気あんのか?
高美はちらと視線を上げて、見返してくる。
「ま、警戒する何かがあったのかもね?」
「何かって?」
ストレートに問うが、高美は視線を泳がせた。
「談話室では言いにくいかな。それで?」
談話室で言いにくい、男を警戒する何かって何なんだ。
まぁそれで、風呂まで様子を見に行った。
「……。ユズ。男と風呂入るのを避けてる人に、近づいていくって、余計なお世話なんじゃないの?」
おまえ男なんだし、と当たり前のことを続ける。
「そーかもしれねーけど心配だろうが。友達だし、同室なんだし」
高美が一瞬、目元を震わせた。
急に不機嫌みたいな顔になって。
「汐ちゃんには、ずいぶん優しいんじゃん」
「そりゃ、外部編入は俺だけなんだから、何かと橋渡しできたらと思って」
「エスカレーター式に上がってきた僕には、どうせユズのことも汐ちゃんのこともわからないよ」
急に機嫌を傾かせたような表情になって、高美は眉間にしわを作った。
なんなんだ。
何怒ってんだ、意味わかんね。
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